俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
「そうよ。そんなのただバックが当たっただけじゃない!大袈裟だわ………そんな悲劇のヒロインみたいにわざと転んで月夜さんに心配してもらうなんて、やはり卑怯な人が考える事だわ」
「…………」
「月夜さん、そんな人とは話さずに私たちと話をしてください」
その女が月夜に手を伸ばした。そして、彼の肩に触れると思われたが、それは叶わなかった。
パチンッと乾いた音が店内に響いた。
女の手を月夜が払ったのだ。
愛しい相手である月夜に、そんな事をされたのが予想外すぎたのか、女達は何が起こったのか理解出来ずにいるようだった。
「いいかげんにしろよ………。弟の大切な恋人の怪我させてんじゃねーよ」
「………月夜さん?」
「え………月夜さん………」
「大体、おまえらがこの店で好き勝手な事やってるから彩華さんが心配してんじゃねーか!俺が静かにしてれば、ホストクラブみたいにしやがって。ここはホストじゃねーんだよ。飯食って、少し話したらさっさと帰れよ!客はお前達だけじゃないんだからなっ!!それに俺の前の弟の事バカにしてんじゃねーよ。しばくぞっ!」
「っっ…………月夜さん………」
あの優しい月夜とは思えない口調。そして、視線はとても冷たく鋭いもので、横で見ている彩華でさえも怖いと思ってしまうほどだった。その視線を向けられている女の子達は、顔が真っ青になりひきつっている。
そして、月夜は彩華から離れて立ち上がる。
すると、月夜が彼女達を見下ろすようになり、ますます迫力が増してしまう。
「今後、態度を変えなかったらおまえ達を出入り禁止にするからな……覚えとけっ!」
「な、な、な………本当はそんな人だったのね。そんな野蛮な人の店なんて、こっちからお断りだわ」
「野蛮はどっちだか………はぁー…………。では、おかえりですね。ありがとうございました」
最後の言葉を言う頃には、いつもの優しい微笑みの彼に戻っていた。けれど、瞳の奥は、先ほどの鋭さを隠しきれてはいなかった。
「ふんっ!!」
そう言って彩華にバックを投げつけた女はカツカツとヒールを鳴らし、綺麗な髪を揺らしながら店を出ていく。すると、その周りに居た女達と、そいつの間にか来ていたホスト時代の客達も彼女の後を追うように一斉に店から出ていったのだった。
あっという間に静かになった店内。
彩華はポカンと月夜を見つめると、月夜は「あー………やっちゃったー」と、鼻の頭をかいてい。
けれど、その表情はすっきりとしたものに変わっていたのだった。