俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
その時、彩華は月夜のスタッフが言っていた言葉を思い出した、「あいつは変わっている」と言っていたのだ。
祈夜の仕事は、変わっているのかもしれない。でも、全く変ではない。けれど、彼自身が気にしているのではないか、と彩華は思った。そうでなければ、何度も同じような事を聞いてこないだろう。
「思わないよ。私の恋人はこんなに可愛い絵を掛けるんだよって、自慢したいよ。漫画本も読んでみんなに勧めたいくださいだもん。最近読まなくなったから、祈夜くんの事知らなかったけど………いろいろチェックして、イリヤのファンになりたいな」
「はははっ…………ファンになるなら、発売されてる漫画本全部読まないとな」
「うん、読みたい!絶対買うよっ!!」
彩華は手に持っていた彼のイラストをうっとりとした目で眺めながら、「楽しみだなー」と言葉をもらした。
彼の考えるストーリーはどんな物なのだろうか。どんなキャラクター達を生み出しているのだろうか。それが読む前から楽しみで仕方が仕方がなかった。帰りに本屋に寄って帰ろう。そんな事を一人で考えていると、不意に祈夜が近づいてくるのがわかった。
「あ、ごめん。貴重な原稿ずっと持ってて………」
てっきり原稿を受け取ろうとしたのだと思ったが、祈夜はそのまま彩華を抱きしめた。
彩華は驚き、声が出なかった。
「………彩華………ありがとう」
祈夜の囁く声が耳元で聞こえた。その声が少し震えていたのを、きっと気のせいではないだろう。
「私の方こそ、教えてくれてありがとう、だよ」
原稿や漫画本に囲まれた、彩華にとっては見たこともない、夢が溢れるこの場所で、2人はしばらくの間抱きしめ合ったのだった。