俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
「………今度、しっかり謝らないとな……」
「そこまで気にしなくていいと思うけどな」
「でも………好きだから。そんな相手を傷つけたかとしれないのは悲しいなって思うので」
「………うまくいくといいな」
「ありがとうございます。あ、あのカクテルの名前って何て言うんですか?」
「あぁ……1番始めに飲んだやつだよな。あれは、キングピーター」
「キングピーター……最後に1杯だけ飲んでもいいですか?」
彩華がそういうと、男は「倒れても知らないからな」と言いながらもスタッフにそれを頼まずに自分で作ってくれる。
口調は荒っぽくて強いのに、実は優しいのではないかと会って数時間だけどおもってしまった。
お酒を待っている間、彩華は眠くなってしまいウトウトとしてしまう。
だらしがないと思っていても、頭も瞼も重くなってしまい、彩華は腕をテーブルに置き頭を乗せた。
「今日はいろんな事があったな………」
彩華は小さく独り言をもらした。
考えてみれば、この数時間で今まで仕事ばかりで平穏で毎日が同じ日々を過ごしていた。
けれど、いつもと違う事をしてみれば、新しい発見や出会いがある、と言われている意味を身をもって体験したような気がしていた。
目を瞑ると、最後に見た葵羽の申し訳なさそうな顔が思い出される。
「葵羽さん………」
ここで名前を本人には聞こえるはずもないのだ。それなのについ名前を口にしてしまう。
好きだという気持ちに気づいてすぐに失恋なんて、よくある話だ。
そう思いつつも、悲しみからため息がもれてしまう。
そのため息に紛れて、赤色のカクテルを手にした男の「………あながちキングピーターは間違いじゃないな」という呟きは、彩華の耳には届かなかった。