俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
「文月祈夜(ふづきいりや)」
「え………?」
「俺の名前。お金の代わりに覚えて」
「文月さん?」
「俺、22歳なんだけど。おまえより年下なんだから、さんはいらないし名前呼べよ。それに敬語もやめろ」
「えっと………祈夜くん?」
「ん…………」
彩華が名前を呼ぶと、祈夜は少し恥ずかしそうにニッコリと微笑んだ。
その微笑みは今まで見た事がないぐらいに穏やかでとても優しい物だった。
彩華は思わずドキッとしてしまい、彼から目を離した。どうして、彼の笑顔を見ただけでこんなにも胸が高鳴っているのか。
きっと、仏頂面ばかりだった彼の笑顔を見たから驚いただけだ。
そう彩華は自分に言い聞かせた。
「おまえの名前は?」
「あ、天羽彩華。28歳だよ」
「彩華ね」
「………さっそく呼び捨てなのね」
「彩華さんの方がいいのか?」
「………祈夜くんがさん付けってなんか変な感じするね」
「………だから呼び捨てでいいだろ」
そう言うと、祈夜は彩華の事をジッと見つめた。
バカにいたような笑みでも、無表情でも、不意打ちの笑みでもない。真剣な表情だった。