俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
彩華がそう聞き返した時だった。
「何が変わってるって………?」
「っっ………祈夜くんっ!」
「じゃ、俺はキッチンに戻るから」
祈夜が戻ってきたのを見て、アドバイスをしてくれたスタッフは逃げるように裏のキッチンへと戻ってしまった。
祈夜はムッとした様子で、彩華の隣に座り「何話してた?」と聞いてくる。
彩華は「私の仕事の事だよ……」と、誤魔化したけれど、祈夜は「へー」と彩華をジロジロと見て疑っている様子だった。
「もう少しで終電の時間だぞ」
「え、嘘……もうそんな時間なの?」
「帰りたくないなら別にまだここに居てもいいけど?」
「………帰ります」
彩華はそういうとお会計を済ませ、挨拶をしてから急いで店を出た。
当然のように、祈夜も店を出る。また、駅まで送ってくれるようだ。
「サービスしてもらったみたいで、ごめんね。ありがとう」
「いいんだよ。今日も別にお金なんて払わなくて良かったんだけど」
「それはダメ。この間もご馳走になったんだから。」
「………なぁ………。」
「ん?」
「まだ帰るなよ………俺、まだおまえと居たい」
祈夜はジャケットのポケットに両手を突っ込んだまま彩華を見つめてそう言った。
そういういえば、今日は彼と手を繋いでないなと思ってしまう。彼は遠慮しているのだろう。
祈夜の真剣な表情に彩華はドキッとしてしまう。
けれど、彩華はまだ自分の考えがまとまっていなかった。
祈夜の優しさに助けられて、彼の手の温かさに包まれたい、彼のあの笑顔をまた見たい。そう思いながらも、頭の中では葵羽の事もよぎってしまう。