俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
「この指輪は僕の大切な人、兄の物なのですよ」
「…………え」
「私の両親は離婚して、父親が私たちを育ててくれました。けれど、父はとても忙しい人でしたから、兄が父親であり母親の代わりをしてくれました。私は兄が大好きだった。………ですが、兄は亡くなってしまって。……兄の遺品であるこの指輪を私が貰ったのです」
「お兄様の指輪………」
「ええ。この指輪がぴったりなのがこの指なので。………勘違いをしてしまいますよね。………すみません」
「…………じゃあ、恋人や結婚相手がいるんじゃ………」
「いませんよ。居ないからこそ、あなたをこうやって誘っているのです。」
その言葉と同時に車は止まった。
ハッとして前を見ると、そこには綺麗な街の明かりが一望出来る夜景があった。そのまで高くない場所。だからこそ、夜景がとても近くに見える。とても美しい場所だった。
その光りに魅了されていると、彩華はシートベルトを外した彼の体に覆われてしまう。
力強く抱き締められる。葵羽からは車に香っていた香水の香りがして頭がくらくらしそうになる。甘い香りではないのに、彼に酔ってしまいそうだ。
「あ、あの………葵羽さん………」
「彩華先生。私はあなたが好きです。子どもが何よりも好きで、仕事を頑張る姿がすごくかっこいい女性だと思いました。それに、微笑んだ顔は子どものように可愛い。1年間あなたを見てきて、会えない日が続くといつあなたが神社に来てくれるのだろうかと心待ちにしていました。そして、あなたに恋していると気づいたのは、あの秋祭りの日です」
「………秋祭り……?」
「えぇ。あなたはあの原っぱの中を歩いていてそのトンボがひらひらとあなたの回りを飛んでいた。それが、何故かあなたも飛んでいってしまいそうに儚く見えました。そして、私を見て微笑んだとき、心が揺れました。今でも覚えてしまう。………綺麗だな、と。」
「そんな事………私が綺麗だなんて………」