俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
「今日は車ではなく歩いてきて正解でした」
「手を繋げて、私も嬉しかったです」
「それもありますが………車だと2人きりなので、たぶんキスをしてしまっていたと思います」
「え…………」
彩華は「キス」という言葉で一気に体温が上がった気がした。
どういう意味なのか、彩華が頭で理解する前に、葵羽はまた話しを続ける。
「彩華さんが帰りたくないと拗ねるような可愛い顔をするもので………そんな顔をされるとさすがに私も我慢出来なくなりそうで。でも、今は外ですから。キス、出来なくて残念です」
「あ、葵羽さんは、私の事褒めすぎです………」
「そうですか?でも、恋人なのですから、普通だと思いますよ。………ここで長話をしているとご迷惑になりますね」
彩華たちが居たのはアパートの玄関の入り口付近だ。誰も人はいないけれど、いつ誰が来るかわからない場所だ。
葵羽は、彩華に向かってニッコリと微笑んだ。
「今日はとても幸せな日になりました。これからよろしくお願いします、彩華さん」
「はい。………こんな私ですが、よろしくお願い致します」
「それでは、また連絡しますね」
その後の葵羽の行動は華麗だった。
繋いでいた彩華の手を離すと思ったが、その手をそのまま自分の元へと引き寄せ、手の甲に小さく唇を落としたのだ。冷たくふわりとした感触に、彩華は驚き目を大きくして葵羽を見てしまう。
けれど、葵羽は全く表情は変えずに、「少し早いですが、おやすみなさい」と言う言葉を残して去っていった。1度振り返って、彩華の事を見た後に小さく手を振ってくれてので、彩華も呆然とそれを真似する。
彼の後ろ姿が見えなくなった後、彩華はよろよろと歩き始め、自分の部屋へと向かった。
そして、部屋に入ってからベットに倒れ込み、そのまま「んー」とうなり声をあげた。今の彩華は顔や首もと、そして耳までも赤くなっているだろう。それが見なくてもわかった。
「………恋人ってすごい………」
手の甲にキスなど、現実ではないと思っていた。けれど、それを自分が体験するとは考えてもいなかったのだ。
愛しくてかっこいい彼が王子さまのように見えてしまった。きっと彼だから似合うのだろうと思いつつも、これが惚れた弱味なのかとも感じてしまう。
葵羽の甘い言葉と態度に、彩華は初日から翻弄されていたのだった。