俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
「では、彩華さんからキスをしていただけますか?」
「え………」
「キスして貰いたいな、と思いまして」
「………恥ずかしいです……」
「では、今日は帰りますね」
「葵羽さん!!………いじわるです」
「あ、もうバレてしまいましたか」
言葉遊びをしているかのように、彩華の言葉を上手にかわしていく。会話自体を楽しんでいるのか、彩華の反応を面白がっているのか。とても楽しそうに笑みを浮かべている。
「してくれますか?」
「………はい」
そう返事をすると葵羽は満足したのか小さく頷くと、上を向いたままゆっくりと瞼を閉じた。
彼の顔を見下ろした事はなかった。それがとても新鮮で、伏せられた彼の長い睫毛は髪の毛と同じ色だなとか、肌がきめ細かいなとかまじまじと見てしまう。そして、軽く開いた唇をじっとみては、頬を染めてまう。
恥ずかしさから逃げてしまいそうになるけれど、彼と少しでも長く一緒に居たいと思えば、キスするしかないと思った。
ゆっくりと彼に近づき、小さくキスを落とした。温かい感触が彩華の唇に残る。甘く感じるのは先程ケーキを食べたからだろうか。唇を離し、少し離れたところで瞼をゆっくりと開くと、近距離で彼と目が合った。
ドキッとしつつも、照れ笑いをすると、葵羽も少し恥ずかしそうに「ありがとうございます」と言った。
「では、あと1曲弾いたら帰りますね」
「………キスしたのに、帰るんですか?」
「キス以上の事をすることになりますよ?…………ゆっくり、焦らず、ですよ。私も我慢してます」
困った顔を浮かべてそう言うと、葵羽はまたピアノの方を向いて鍵盤の上で手を踊らせた。次もドビュッシーの曲で亜麻色の髪の乙女を聴かせてくれた。
けれど、先程の彼の言葉のせいで、その曲を集中して聞くことは出来なくなってしまったのだった。