俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
「偶然ですね。お買い物ですか?」
「えぇ……用事がありまして。彩華さんは今から帰りですか?」
「あ、はい。私も用事を済ませていたので」
彩華はさりげなく持っていた紙袋を後ろに隠しながらそう話すと、彼は「そうでしたか」と、いつも通りの微笑みを見せてくれた。
それを見て、彩華はホッとした。
「もしよかったら、家まで送ります。今から向かうところが同じ方向なので」
「そんな………お仕事ですよね?一人で帰れます……」
「私が彩華さんと少しでも一緒に居たいんです」
「それは私も同じですけど……」
「では、決まりです」
そういうと、葵羽はにっこりと笑って彩華の手を取ってくれた。
やはり優しい。
彼の笑顔を見ると安心してしまう。
体温を感じると、もっと一緒に居たくなる。
葵羽が大好きなんだ。
そう思えて、偶然の出会いに感謝しながら2人でキラキラと輝く街中を歩いた。
彼が車を停めていたのは、裏路地にある小さな駐車場だった。「休日でなかなか駐車場が空いてなくて困りました」と苦情しながら教えてくれた。
後部座席に彼が買った荷物を置いたのを見て、彩華は頭に浮かんだ事を葵羽に質問をした。
彩華はいつものように助手席に乗り、葵羽は運転席に乗り込んだ時だった。
「お買い物していたの、楽器店でしたよね。………もしかして、葵羽さんのお仕事って、音楽関係なんですか?」
何気ない話題だったはずだ。
それなのに、その言葉を口にした途端、周りの空気が変わったように感じた。それは彼の表情が固まり、そして無になったからかもしれない。
彩華は、何かいけない事でも聞いてしまったのかと後悔したけれど、それは後の祭りだった。
葵羽はチラッと彩華を見た。
口元は微笑んでいるのに、目は笑っていない。彩華は「怖い」と思ってしまった。
「それを知ってどうするんですか?」
葵羽が放った言葉はとても冷たく、彩華を拒むような声だった。