俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
「………それは………」
「………その話はやめましょう」
そう言ってから、彼は車のエンジンをかけて暖房を入れてくれる。
葵羽が「彩華さん。シートベルトをしてくれませんか?」と言っているのが聞こえたけれど、頭の中では「なぜ?」「どうして?」と、疑問がぐるぐると巡っていた。
恋人として、彼の仕事を知りたいと思うことはダメなのだろうか?
とうして教えてくれないのか?
何故、そんなにも怒るのか。
優しくしてくれるのに、彼は自分の事を教えてくれない。
秘密ばかり。
私たちは本当に恋人なの?
「彩華さん?」
葵羽の手が自分の向けて伸ばされたのを見て、彩華は咄嗟に自分の手で彼を拒んだ。
弾くように彼を手を払うと、葵羽は驚いたように彩華を見ていた。
「ごめんなさい………今日は1人で帰ります」
彩華は車のドアを開けて、飛び出した。
後ろから「彩華さん!待ってくださいっ」と追いかけてくる声がしたので、彩華はくるりと彼の方を見て、大きな声を出した。
「追いかけてこないでっ!!………今日は1人にしてください………」
そう言葉を残し、彩華は葵羽から逃げるように走り去った。
「葵羽さんのバカっ………」
彩華は走りながらそう呟く。
これが、彩華の精一杯の抵抗の手段だった。