俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
葵羽ルート 10話「溢れる涙と言葉」
葵羽ルート 10話「溢れる涙と言葉」
葵羽はずかずかと店内に入り、彩華の目の前に立った。彩華はすぐに立ち上がり、彼を見上げる。けれど、葵羽は無言のままをこちらを見るだけだった。
「こいつが恋人?」
祈夜がそう言うと、葵羽はジロリと祈夜を見た。2人の視線が合う。よく漫画などで火花がバチバチッとなる状況は、まさに今なのだろうと彩華は感じ、おろおろとしてしまう。
そんな状況を見て、祈夜の兄が声を掛けてくれる。
「お客さん。まぁ、まず座ったら?」
「………すぐ帰ります。彩華ちゃん、行くよ」
「え、…………うん」
葵羽に手を差し伸べられて、思わず手を繋ごうとすると、「待てよ」と祈夜は止めた。
「祈夜くん………」
「おまえ、大丈夫なの?」
心配そうに彩華に視線を送る祈夜に、彩華はにっこりと微笑み返した。
「うん。葵羽さんが来てくれたから………帰るね」
「わかった」
「ごめんなさい。……葵羽さん、いきましょう」
「………」
彩華はそう言い、財布からお金を出してカウンターの上に置いた。「ご馳走さまでした」と祈夜の兄に挨拶をしてから、彼の手を取った。彼の手はとても冷たく冷えきっていた。