俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
彩華の声は震え、自分ではないように思えないような悲痛な響きが口から出た。
我慢していたもの、ずっと気にしないようにしていたもの。それらが言葉と涙になってあふれ出てしまった。
こんな惨めで情けない姿を見せたくない。何も言ってくれない葵羽の姿を見たくない。
そんな思いで、彩華は彼に背を向けて走り出した。
後ろから自分を呼ぶ声も、こちらに向かってくる足音も聞こえてこない。
また、涙が溢れそうになった時。フッと視界に人影が飛び込んできた。こんな近くに人が居たのだと思い、ハッとしてしまう。近づくと、それがどんな人物なのかわかった。祈夜だ。
「………っ………」
彼がそこに居た事の意味をすぐ理解したけれど、彩華は彼からも逃げるように走り去った。
祈夜の表情は、暗がりでよくわからなかったけれど、見たことがないような、先ほどの葵羽と同じようか温度のない表情に、彩華は思えた。
葵羽は、もうきっと自分には会いに来ない。
もう終わってしまっただろう。
そう思いつつも、彼は話してくれる。そう信じている自分も居た。
彩華は、葵羽から逃げてきた事を後悔しつつも、今はしばらく会いたくないと思ってしまう。
頭の中をぐるぐると矛盾した考えが回り、彩華は涙を拭きながら、ゆっくりと夜の道を歩き始めた。