好きなんかじゃない
茶と小箱
「あれー!蔵本ちゃんじゃん!」
藤田に指をさされた。
彼はいつものように遅刻して登校した。
そして静かな朝会のさなか、自分の席に行こうと私の隣と通ったところで大きな声で言ったのだ。
「藤田ー!
いいから席に着きなさい!」
担任の諸口先生が注意する。
私はと言うと、いきなりクラス中の注目を浴びて、顔が赤くなるのを感じ、思わず下を向いた。
目線があげられない。
そうしてると、私の机の横にいた藤田がその場に膝をついた。
そして私の机の端に手を添えるとその上に顎を乗せ、恥ずかしさでうつむく私の顔を下から覗き込む格好になる。
「おはよ。蔵本ちゃん」
私に目を合わせて言った。
それだけ言うと藤田は立ち上がり自分の席に着くべくいなくなってしまった。
先生がイライラと藤田に注意する。
私はその姿勢のまま先生が藤田に向かって何かを言ったり、気を取り直して連絡事項を離すのが聞いていた。
でも、内容は頭に入ってこない。
私の目線に合わせてくれたの?
胸のどきどきが収まって顔を上げられるようになってから、そっと藤田のほうを見る。
窓際で一番前の席。
背中しか見えない。
髪に光が反射して天使みたいに見える。
「おはよ、蔵本ちゃん」
自分の中で、言われた声をこだまさせる。
一時間目の数学はやっぱり頭に入らなかった。
一時間目が終わっての短い10分間の休み。
私の席に藤田が来た。
私は友達のゆりちゃんとお話をしていた。
「ねーねー。同じクラスだったんだね。蔵本ちゃん。
ごめんね。俺、名前がうまく覚えらんなくってさー」
「う、うん。いいよ。藤田…、くん」
私と藤田のつたないやり取りをみて、ゆりちゃんが声を上げる。
「あれ?藤田とマリって、仲良かったの?」
ゆりちゃんは私の宿題を必死に写している。
「うん、仲いいよ。
昨日、一緒に遊びに行ったんだ」
藤田が答えた。
ゆりちゃんは、多少ムッとしながら
「へぇ、そう。
ヘンなとこに連れ込んだりしてないよね」
と言った。
「連れ込まれてないよ!
それより、古文3時間目だよ!急がないと!」
ゆりちゃんに誤解されるのだけは嫌だ。
藤田とは、別に何でもないから。
ゆりちゃんは筆記スピードを加速させる。
藤田は手近にあった席に背もたれが前に来るようにして座る。
背もたれに覆いかぶさるようにして寄っかかりながら
「さっきの見てないの?」
と、ゆりちゃんに聞いた。
ゆりちゃんは答えない。
多分、無視をしている。
今、その余裕ないから。
代わりに私が答える。
「ゆりちゃん、いつも朝会の時は、寝てるから」
だから、多分、朝の下りは見てないと思う。
「ふーん、そうなんだ。」
藤田は必死に写しているゆりちゃんを見た。
椅子に座ったまま引きずりつつ私の隣に来る。
そして、私の耳に耳打ちする。
耳に熱い吐息がかかる。
「いつもこうなの?」
息が熱くてくらくらする。
私は、かろうじて
「だ、大体…」
とだけ答えた。
藤田は、ゆりちゃんの方に向き直ると、
「谷村。古文なら多分自習になるからやんなくていいよ」
と言った。
ゆりちゃんは手を止めて、怪訝な表情で藤田を見る。
「なんで、知ってんの?」
藤田は、にっこり笑う。
「だって俺、登校してくるときに古文の棚橋と校門前ですれ違ったんだもん。
なんか、マスクしてたし、体調悪いんじゃない?」
で、早退したと。
藤田は、挑戦的な顔でゆりちゃんを見る。
ゆりちゃんは、黙ってノートを閉じて
「お前は気に入らん」
と言い放った。
私はさすがに
「ゆりちゃん、駄目だよ。
教えてくれたんだし、お礼ぐらい言わないと」
とゆりちゃんをたしなめる。
藤田は意外そうな顔をして、
「別に喧嘩してるわけじゃないよ」
と言った。
ゆりちゃんは、ちょっとむくれて
「教えてくれて、どうも」
と言いながら、そっぽを向いてしまった。
藤田は、また私に耳打ちして
「俺、嫌われたかな?」
と言った。
今度の耳打ちはなれたからもう、大丈夫。
それより少し不安そうな藤田の声が気になる。
私は耳打ちをせずに言う。
「怒ってるわけじゃないし、嫌ってもないよ。
もっと先に言ってくれればいいのにとか、頑張りみられて恥ずかしいとか」
意地っ張りだから。まで、言おうとしたけどゆりちゃんがこっちを向いたため言葉を切る。
ゆりちゃんは言う。
「そう思わせたんなら、謝る。悪かった。
……教えてくれてありがとう」
ゆりちゃんは基本、いい子だから大丈夫。
顔を見ると、藤田もほっとしてるようでよかった。
チャイムが鳴り、藤田もゆりちゃんも自分の席に帰っていく。
なんか、藤田と友達になったみたい。
藤田に指をさされた。
彼はいつものように遅刻して登校した。
そして静かな朝会のさなか、自分の席に行こうと私の隣と通ったところで大きな声で言ったのだ。
「藤田ー!
いいから席に着きなさい!」
担任の諸口先生が注意する。
私はと言うと、いきなりクラス中の注目を浴びて、顔が赤くなるのを感じ、思わず下を向いた。
目線があげられない。
そうしてると、私の机の横にいた藤田がその場に膝をついた。
そして私の机の端に手を添えるとその上に顎を乗せ、恥ずかしさでうつむく私の顔を下から覗き込む格好になる。
「おはよ。蔵本ちゃん」
私に目を合わせて言った。
それだけ言うと藤田は立ち上がり自分の席に着くべくいなくなってしまった。
先生がイライラと藤田に注意する。
私はその姿勢のまま先生が藤田に向かって何かを言ったり、気を取り直して連絡事項を離すのが聞いていた。
でも、内容は頭に入ってこない。
私の目線に合わせてくれたの?
胸のどきどきが収まって顔を上げられるようになってから、そっと藤田のほうを見る。
窓際で一番前の席。
背中しか見えない。
髪に光が反射して天使みたいに見える。
「おはよ、蔵本ちゃん」
自分の中で、言われた声をこだまさせる。
一時間目の数学はやっぱり頭に入らなかった。
一時間目が終わっての短い10分間の休み。
私の席に藤田が来た。
私は友達のゆりちゃんとお話をしていた。
「ねーねー。同じクラスだったんだね。蔵本ちゃん。
ごめんね。俺、名前がうまく覚えらんなくってさー」
「う、うん。いいよ。藤田…、くん」
私と藤田のつたないやり取りをみて、ゆりちゃんが声を上げる。
「あれ?藤田とマリって、仲良かったの?」
ゆりちゃんは私の宿題を必死に写している。
「うん、仲いいよ。
昨日、一緒に遊びに行ったんだ」
藤田が答えた。
ゆりちゃんは、多少ムッとしながら
「へぇ、そう。
ヘンなとこに連れ込んだりしてないよね」
と言った。
「連れ込まれてないよ!
それより、古文3時間目だよ!急がないと!」
ゆりちゃんに誤解されるのだけは嫌だ。
藤田とは、別に何でもないから。
ゆりちゃんは筆記スピードを加速させる。
藤田は手近にあった席に背もたれが前に来るようにして座る。
背もたれに覆いかぶさるようにして寄っかかりながら
「さっきの見てないの?」
と、ゆりちゃんに聞いた。
ゆりちゃんは答えない。
多分、無視をしている。
今、その余裕ないから。
代わりに私が答える。
「ゆりちゃん、いつも朝会の時は、寝てるから」
だから、多分、朝の下りは見てないと思う。
「ふーん、そうなんだ。」
藤田は必死に写しているゆりちゃんを見た。
椅子に座ったまま引きずりつつ私の隣に来る。
そして、私の耳に耳打ちする。
耳に熱い吐息がかかる。
「いつもこうなの?」
息が熱くてくらくらする。
私は、かろうじて
「だ、大体…」
とだけ答えた。
藤田は、ゆりちゃんの方に向き直ると、
「谷村。古文なら多分自習になるからやんなくていいよ」
と言った。
ゆりちゃんは手を止めて、怪訝な表情で藤田を見る。
「なんで、知ってんの?」
藤田は、にっこり笑う。
「だって俺、登校してくるときに古文の棚橋と校門前ですれ違ったんだもん。
なんか、マスクしてたし、体調悪いんじゃない?」
で、早退したと。
藤田は、挑戦的な顔でゆりちゃんを見る。
ゆりちゃんは、黙ってノートを閉じて
「お前は気に入らん」
と言い放った。
私はさすがに
「ゆりちゃん、駄目だよ。
教えてくれたんだし、お礼ぐらい言わないと」
とゆりちゃんをたしなめる。
藤田は意外そうな顔をして、
「別に喧嘩してるわけじゃないよ」
と言った。
ゆりちゃんは、ちょっとむくれて
「教えてくれて、どうも」
と言いながら、そっぽを向いてしまった。
藤田は、また私に耳打ちして
「俺、嫌われたかな?」
と言った。
今度の耳打ちはなれたからもう、大丈夫。
それより少し不安そうな藤田の声が気になる。
私は耳打ちをせずに言う。
「怒ってるわけじゃないし、嫌ってもないよ。
もっと先に言ってくれればいいのにとか、頑張りみられて恥ずかしいとか」
意地っ張りだから。まで、言おうとしたけどゆりちゃんがこっちを向いたため言葉を切る。
ゆりちゃんは言う。
「そう思わせたんなら、謝る。悪かった。
……教えてくれてありがとう」
ゆりちゃんは基本、いい子だから大丈夫。
顔を見ると、藤田もほっとしてるようでよかった。
チャイムが鳴り、藤田もゆりちゃんも自分の席に帰っていく。
なんか、藤田と友達になったみたい。