好きなんかじゃない
「あれ?」
今まで青空を見ていたはずなのに、今度は何かの天井が見える。
天国かな?
「落ちたんだよ。屋上の貯水槽のトコから」
私は起き上がる。
頭が痛い。声のした方向を見ると、ベッドのわきに座っていた。
私がいるここは、保健室のベッド。私は寝かされていた。
藤田は脇に椅子を置いて、足を組んでその上に頬杖をつくような姿勢で座っていた。
「藤田……」
もう授業は終わったんだろう。赤い光が目に入ってくる。夕焼けの赤い光。
カーテン越しでもまぶしくて目を細める。
藤田がいらだったように言う。
「なんで、あんなとこにいたんだよ」
あんなとこ……。屋上の貯水タンクの事かな?
「藤田、さがしてたから、いるかなって」
藤田がびっくりした様子でいう。
「俺が?なんで?」
「ゆりちゃんに対して怒ったから。なんで怒ってたんだろうと思って」
「それを俺に聞こうって?」
藤田が力が抜けたような顔をした。
「俺はてっきり……。」
藤田が何かを言いかける。
「てっきり?」
「別に。それよりも谷村が心配してたよ。
どうしてもバイトが休めないっていうんで、バイト行ったけど。
あとで連絡してやれよ。」
ゆりちゃんもいたんだ。
「ゆりちゃんと仲直りしたの?」
「……それどころじゃなくなったんだよ。」
藤田は少し笑った。
なんだか自然な笑顔だった。
藤田が立ち上がって、カーテンを少し開ける。
「先生!蔵本ちゃん、気が付いたみたいだよ!」
養護教諭の先生を呼ぶ。
安定感のあるヒールの音が近づいてくる。カーテンが大きく開けられ、先生が入ってきた。
藤田はさっきまで自分が座っていた椅子を先生に勧める。
先生はすわって私を見だした。
「あらーよかった。外傷ないから寝かせておいたんだけど、目が覚めてよかったわぁ。
このまま起きなかったらどうしようかと思った。
うん、うん、顔色も悪くなさそうね。気分が悪いとかない?」
先生が、聞く。
「えーっと、少しぼんやりしてます。」
「体は痛い?」
今気が付いた。
「痛い、です。背中が……」
さすがにあんなに高いとこから落ちたもんなぁ。
先生は考えて
「一応、して病院で精密検査はしてもらったほうがいいと思うけど……」
「さすがに、そこまでは……」
「行かせます。」
藤田にさえぎられた。
先生は
「そうしたほうがいいわ」
と言いながら、書類を用意しにベッドを出て行ってしまった。
藤田は
「諸口センセに車出してもらお。立てる?」
藤田は私のものと藤田のもの、二つカバンを持った。
「いいよ、さすがに、悪いし」
「いいから俺に心労を一日に二回もかけるな。さすがに死んだかと思った。」
「ごめん」
「いいよ。やっぱ車は近くまで持ってきてもらうから、ここで待ってて」
そういうと藤田は持っていたかばん床に落とし、いなくなってしまった。
私はひとり残される。
「怒ってるよなぁ。やっぱり」
私はつぶやく。
「そんなことないわよ。心配したのよ」
養護教諭の先生が書類を手に持ってやってきた。
私にその手に持っていた書類を手渡す。私の状態と先生のハンコが見える。
行った先の病院で渡すってこと?
「あの子、すごい血相抱えて、来てねぇ。初めて見たわ。
あなたが階段から落ちたって
ものすごく焦ってたんだから!」
そうなんだ。悪いことしたなぁ。
「じゃあ、謝んないといけませんね」
「感謝しときなさいよ」
あ、あと
先生が思い出したように言う。
「保健室の薬品類は勝手に使っちゃだめよ」
忘れてた。
槇原さん、どうなったんだろう。
ちゃんと帰れたかな。
諸口先生は来た。
「これは、」
私は思わず言った。
車体には大きく、綾羅木町役所 公用車 No283と書かれている。
藤田はあきれたように言った。
「諸口センセ、車持ってないってさ」
「えー。」
私は思わず声に出る。
先生は
「俺、ペーパードライバーなんだよ。運転するの教習所以来だぜ」
え?
この人で大丈夫なの?
「うっそでしょ、センセ。モテない理由それじゃない?」
藤田がわざとらしく手を口に当てる。
「うるせえなぁ。病院ってそこだろ。歩いても30分かからないくらいのトコ
よゆーだよ。余裕。」
なおも信用できないらしい藤田は、懐疑的な表情をしながらも荷物を後部座席に
放り込んでいく。
「蔵本、後ろ座りな」
藤田が後部座席のドアを開けてくれる。
まぁ一応、免許試験には通ってるわけだし、大丈夫だよね。
私は運転席の後ろの席に乗り込んだ。
「シートベルトつけろよ」
諸口先生の声が飛んでくる。
正面を見ると、リラックスのかけらもない背中が目に飛び込んできた。
「なんか……先生、緊張してます?」
私は声をかける。
「大丈夫。案ずるな。」
頼もしいんだか、そうでもないんだか。
今まで青空を見ていたはずなのに、今度は何かの天井が見える。
天国かな?
「落ちたんだよ。屋上の貯水槽のトコから」
私は起き上がる。
頭が痛い。声のした方向を見ると、ベッドのわきに座っていた。
私がいるここは、保健室のベッド。私は寝かされていた。
藤田は脇に椅子を置いて、足を組んでその上に頬杖をつくような姿勢で座っていた。
「藤田……」
もう授業は終わったんだろう。赤い光が目に入ってくる。夕焼けの赤い光。
カーテン越しでもまぶしくて目を細める。
藤田がいらだったように言う。
「なんで、あんなとこにいたんだよ」
あんなとこ……。屋上の貯水タンクの事かな?
「藤田、さがしてたから、いるかなって」
藤田がびっくりした様子でいう。
「俺が?なんで?」
「ゆりちゃんに対して怒ったから。なんで怒ってたんだろうと思って」
「それを俺に聞こうって?」
藤田が力が抜けたような顔をした。
「俺はてっきり……。」
藤田が何かを言いかける。
「てっきり?」
「別に。それよりも谷村が心配してたよ。
どうしてもバイトが休めないっていうんで、バイト行ったけど。
あとで連絡してやれよ。」
ゆりちゃんもいたんだ。
「ゆりちゃんと仲直りしたの?」
「……それどころじゃなくなったんだよ。」
藤田は少し笑った。
なんだか自然な笑顔だった。
藤田が立ち上がって、カーテンを少し開ける。
「先生!蔵本ちゃん、気が付いたみたいだよ!」
養護教諭の先生を呼ぶ。
安定感のあるヒールの音が近づいてくる。カーテンが大きく開けられ、先生が入ってきた。
藤田はさっきまで自分が座っていた椅子を先生に勧める。
先生はすわって私を見だした。
「あらーよかった。外傷ないから寝かせておいたんだけど、目が覚めてよかったわぁ。
このまま起きなかったらどうしようかと思った。
うん、うん、顔色も悪くなさそうね。気分が悪いとかない?」
先生が、聞く。
「えーっと、少しぼんやりしてます。」
「体は痛い?」
今気が付いた。
「痛い、です。背中が……」
さすがにあんなに高いとこから落ちたもんなぁ。
先生は考えて
「一応、して病院で精密検査はしてもらったほうがいいと思うけど……」
「さすがに、そこまでは……」
「行かせます。」
藤田にさえぎられた。
先生は
「そうしたほうがいいわ」
と言いながら、書類を用意しにベッドを出て行ってしまった。
藤田は
「諸口センセに車出してもらお。立てる?」
藤田は私のものと藤田のもの、二つカバンを持った。
「いいよ、さすがに、悪いし」
「いいから俺に心労を一日に二回もかけるな。さすがに死んだかと思った。」
「ごめん」
「いいよ。やっぱ車は近くまで持ってきてもらうから、ここで待ってて」
そういうと藤田は持っていたかばん床に落とし、いなくなってしまった。
私はひとり残される。
「怒ってるよなぁ。やっぱり」
私はつぶやく。
「そんなことないわよ。心配したのよ」
養護教諭の先生が書類を手に持ってやってきた。
私にその手に持っていた書類を手渡す。私の状態と先生のハンコが見える。
行った先の病院で渡すってこと?
「あの子、すごい血相抱えて、来てねぇ。初めて見たわ。
あなたが階段から落ちたって
ものすごく焦ってたんだから!」
そうなんだ。悪いことしたなぁ。
「じゃあ、謝んないといけませんね」
「感謝しときなさいよ」
あ、あと
先生が思い出したように言う。
「保健室の薬品類は勝手に使っちゃだめよ」
忘れてた。
槇原さん、どうなったんだろう。
ちゃんと帰れたかな。
諸口先生は来た。
「これは、」
私は思わず言った。
車体には大きく、綾羅木町役所 公用車 No283と書かれている。
藤田はあきれたように言った。
「諸口センセ、車持ってないってさ」
「えー。」
私は思わず声に出る。
先生は
「俺、ペーパードライバーなんだよ。運転するの教習所以来だぜ」
え?
この人で大丈夫なの?
「うっそでしょ、センセ。モテない理由それじゃない?」
藤田がわざとらしく手を口に当てる。
「うるせえなぁ。病院ってそこだろ。歩いても30分かからないくらいのトコ
よゆーだよ。余裕。」
なおも信用できないらしい藤田は、懐疑的な表情をしながらも荷物を後部座席に
放り込んでいく。
「蔵本、後ろ座りな」
藤田が後部座席のドアを開けてくれる。
まぁ一応、免許試験には通ってるわけだし、大丈夫だよね。
私は運転席の後ろの席に乗り込んだ。
「シートベルトつけろよ」
諸口先生の声が飛んでくる。
正面を見ると、リラックスのかけらもない背中が目に飛び込んできた。
「なんか……先生、緊張してます?」
私は声をかける。
「大丈夫。案ずるな。」
頼もしいんだか、そうでもないんだか。