好きなんかじゃない
校門を出るまでは順調だったのは、きっとスピードが出てなかったからだと思う。
じわりじわりと校門に車が近づいていく。
死ぬのかな?と思ったのは公道に出る前、一時停止のサインで、ブレーキの場所をうろ覚えだった時。
場所が分かったのは良かったけど、きつめの急ブレーキをかけられる。
シートベルトが引っ掛かり胸元を押されたらしい藤田が咳き込みながら言う。
「何?初めての運転なの?俺、死ぬのは嫌なんだけど!」
「じゃあ、お前は降りろよ!」
「い!や!蔵本の検査終わるまではついていく」
「なんなんだよ!」
「蔵本が元気になるまでは許さない」
「お前、怖いよ!」
「別に?普通でしょ」
「怖い!怖い!」
「さっさと行きなよ。あの車、待ってくれてんじゃん」
「タイミングが合わないんだよ!」
「今がタイミングでしょ」
「ちょっと、待って。ウインカー、は、あれ?」
藤田の言動も気になるけれど、明らかに運転のすべてを忘れている諸口先生の
ほうが今は怖い。
これから、50Kmとかスピード出すんでしょ。
無理だよ。
驚くほどじわっと公道に入り込む。
なんか、ロボットアニメの初操縦のシーンみたい。
なんとか、車線の間に車体を収めて、先生は
「よしっ」
と言っている。
私は運転免許は持ってないけど、多分よしじゃないと思う。
ゆっくりとスピードが増していく。
「ここからはしばらくまっすぐだから大丈夫。」
先生が自分に自己暗示をかけている。
怖い。
「事故しないでよ?」
先生が自信なさそうに笑うのがバックミラー越しに見える。
いやなもの見た。
先生が、なにか思いついたらしい。
「あ、助手席が一番死にやすい席らしいぞ。」
「うっそ。車止めて!後ろいくから」
「無理だって。路側帯に停めるとかそんな器用な事、俺できないぜ」
「うわっ最悪。死ぬしかないじゃん」
あー、とか言いながら、藤田が頭を抱える。
ふいに藤田が後部座席を振り返る。
「蔵本、静かだけど生きてる?」
「生きてる……まだ」
「それだけでも良かったよ。背中とかには違和感ないか?」
正直、怖すぎてそれどころじゃない。
背中を動かして確認する。
思った以上に力が入っていたのか、ヘンな感じがする。
「今は、痛い、かもしれない」
あいまいな言い方になる。
藤田は、「痛くないならいい」とでも言いたげに
「そう、ヤバかったら叫んで。もうタクシー拾うから」
と言った。
早めにそうしてもらえるとうれしいなぁ。
さっきから明らかにスピードが安定してないから。
ちらっと、正面の運転席を見る。学校を出た時から姿勢が変わってないなぁ。
聞いていたのか先生が言う。
「タクシー拾う、とか普通に高校生が使う言い回しじゃないだろ」
「間違ってないからいいでしょ」
運転にも慣れてきたのか先生が話し出す。
運転に集中してほしい。
今、大きく車線をズレた。
「さすがに、一日に二人も怪我人出るとは思わなかったわ」
「まぁ、みゆうちゃんと違ってこっちは自業自得だけどねぇ」
藤田が窓に頭を預ける。
「それもそうなんだけど、藤田、お前がここまで付き合いのいいやつだとは
思わなかったわ。保健室も担いでつれてったんだろ?」
「さすがに、怪我人ほっておくほどクズじゃない」
先生がふと、といった様子で藤田に尋ねる。
「お前、そんな性格だったっけ?」
確かに、いつももっと柔らかい言い方をするというか……
「うーるーさーいーなあ!」
藤田は罰が悪くなったのか、照れ隠しなのか
ガンガン音がするほど、ダッシュボードを蹴り飛ばす。
「おい!これ公用車!」
先生が焦る。車体が右に揺れる。
それをまた焦って戻そうとするため、蛇行運転になる。
気持ち悪い。吐きそう……
タイヤが音を立てた。
もう車降りたい……
「先生!赤!前の信号!」
藤田が叫ぶ。
もう嫌!
じわりじわりと校門に車が近づいていく。
死ぬのかな?と思ったのは公道に出る前、一時停止のサインで、ブレーキの場所をうろ覚えだった時。
場所が分かったのは良かったけど、きつめの急ブレーキをかけられる。
シートベルトが引っ掛かり胸元を押されたらしい藤田が咳き込みながら言う。
「何?初めての運転なの?俺、死ぬのは嫌なんだけど!」
「じゃあ、お前は降りろよ!」
「い!や!蔵本の検査終わるまではついていく」
「なんなんだよ!」
「蔵本が元気になるまでは許さない」
「お前、怖いよ!」
「別に?普通でしょ」
「怖い!怖い!」
「さっさと行きなよ。あの車、待ってくれてんじゃん」
「タイミングが合わないんだよ!」
「今がタイミングでしょ」
「ちょっと、待って。ウインカー、は、あれ?」
藤田の言動も気になるけれど、明らかに運転のすべてを忘れている諸口先生の
ほうが今は怖い。
これから、50Kmとかスピード出すんでしょ。
無理だよ。
驚くほどじわっと公道に入り込む。
なんか、ロボットアニメの初操縦のシーンみたい。
なんとか、車線の間に車体を収めて、先生は
「よしっ」
と言っている。
私は運転免許は持ってないけど、多分よしじゃないと思う。
ゆっくりとスピードが増していく。
「ここからはしばらくまっすぐだから大丈夫。」
先生が自分に自己暗示をかけている。
怖い。
「事故しないでよ?」
先生が自信なさそうに笑うのがバックミラー越しに見える。
いやなもの見た。
先生が、なにか思いついたらしい。
「あ、助手席が一番死にやすい席らしいぞ。」
「うっそ。車止めて!後ろいくから」
「無理だって。路側帯に停めるとかそんな器用な事、俺できないぜ」
「うわっ最悪。死ぬしかないじゃん」
あー、とか言いながら、藤田が頭を抱える。
ふいに藤田が後部座席を振り返る。
「蔵本、静かだけど生きてる?」
「生きてる……まだ」
「それだけでも良かったよ。背中とかには違和感ないか?」
正直、怖すぎてそれどころじゃない。
背中を動かして確認する。
思った以上に力が入っていたのか、ヘンな感じがする。
「今は、痛い、かもしれない」
あいまいな言い方になる。
藤田は、「痛くないならいい」とでも言いたげに
「そう、ヤバかったら叫んで。もうタクシー拾うから」
と言った。
早めにそうしてもらえるとうれしいなぁ。
さっきから明らかにスピードが安定してないから。
ちらっと、正面の運転席を見る。学校を出た時から姿勢が変わってないなぁ。
聞いていたのか先生が言う。
「タクシー拾う、とか普通に高校生が使う言い回しじゃないだろ」
「間違ってないからいいでしょ」
運転にも慣れてきたのか先生が話し出す。
運転に集中してほしい。
今、大きく車線をズレた。
「さすがに、一日に二人も怪我人出るとは思わなかったわ」
「まぁ、みゆうちゃんと違ってこっちは自業自得だけどねぇ」
藤田が窓に頭を預ける。
「それもそうなんだけど、藤田、お前がここまで付き合いのいいやつだとは
思わなかったわ。保健室も担いでつれてったんだろ?」
「さすがに、怪我人ほっておくほどクズじゃない」
先生がふと、といった様子で藤田に尋ねる。
「お前、そんな性格だったっけ?」
確かに、いつももっと柔らかい言い方をするというか……
「うーるーさーいーなあ!」
藤田は罰が悪くなったのか、照れ隠しなのか
ガンガン音がするほど、ダッシュボードを蹴り飛ばす。
「おい!これ公用車!」
先生が焦る。車体が右に揺れる。
それをまた焦って戻そうとするため、蛇行運転になる。
気持ち悪い。吐きそう……
タイヤが音を立てた。
もう車降りたい……
「先生!赤!前の信号!」
藤田が叫ぶ。
もう嫌!