好きなんかじゃない
「へー、今ってあんたしか部員いないの?」

「うん、今はいないよ。
 もうひとりいるけど……」

バイトに明け暮れているから来ない、の部分はうまく声に出せなかった。

「ふーん」

じろじろと机の上に置いてある原稿用紙なんかを見ながら
あまり興味もなさそうに、藤田は答えた。
気まずいから、帰ってほしいなぁ。

「ねえ、アイス好き?」

ふいに、藤田が私に聞いた。
いつの間にか私の目の前に立っていた。

「え、あ、アイス…?」

「うん、アイス。嫌い?」

いきなり、藤田の顔がズームしてきた。
藤田はキスができそうなほど顔を寄せる。
ち、近い……
かわいい印象だった藤田は、よくみると私よりも背が大きい。
私が何も言えないでいると、藤田は「じゃぁ、OKね」
と言うと、ドアのそばに立っている私の横をするりと通り抜ける。
そして私の手を引いて、廊下に踏み出した。
繋がれた手が熱い。
顔が赤くなる。
何か、言わないと……

「あ、あのね!職員室に鍵だけは返さないと、!」

いけないから。
私は何とかそれだけ言う。
必死に言ったため、声が裏返って、キツイ言い方になってしまった。
そんな私を見て、藤田は、ふわりと笑う。

「なんだ、大きな声出せるんだ」

「あ、ごめん」

「謝んなくていーよ。じゃあ校門の外で待ってるね」

パッと私の手を放す。
私はスピードについていけなくて、そのまま立ち止まってしまう。
藤田は昇降口に向かって歩いて行ってしまった。

手はまだ、熱くて

「やけどするかと思った。」

藤田が見えなってから、やっと動けるようになった。
私は、藤田と、アイスを、食べに行く
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