好きなんかじゃない
「帰りは行きに比べてスムーズでよかったね。」
私は、車から降りて伸びをした。
「だろう?俺は要領いいんだよ。」
先生が得意げに車の鍵をもてあそびながら言う。
藤田が自分の荷物を引っ張り出しながら、
「ま、途中で対向車に”無灯火”って怒鳴られたけどね」
と言った。
先生はムッとしながら
「お前らを五体満足で返してやったんだ。ありがたく思え。」
「はいはい。じゃ蔵本、行こうか」
藤田が校門のほうに振り向いた。
「あ、うん、じゃあ、先生ありがとうございました。」
私は頭を下げた。
「おう!これに懲りたらもう危ない真似するなよ。藤田、お前もな!」
「わかったって。じゃねー」
藤田はおざなりに先生に向かって手を振る。
私は、藤田を追いかけた。
「藤田!」
「何?蔵本?」
「私のためにバイト休んでくれたんでしょう?その、」
ごめんね。と言いかけた。
でも、養護教諭の先生の”感謝すればいいのよ”という言葉が脳裏に蘇る。
「ありがとう。藤田」
藤田は笑う。
「別にいーのに。僕が勝手にやすんだだけのことだしぃ」
藤田は甘えたような奇妙な言い方をした。
「それより気を付けて帰りなよ。だんだん日暮れが早くなってるんだから」
「うん、藤田もね」
「僕、かわいいから襲われるかもね」
「シャレにならない冗談を言わないで」
「うそだよ。蔵本がはっきりしゃべるようになったね」
「そうかな?」
「うん、よかった。怖がられてると思ってた。」
「怖がってなんかないよ。」
ちょっと、近づきがたかったのはあるかもしれない。
「もー、秋だね。アイスは流石にきついな」
藤田が街路樹のいちょうの木を指さす。
よく見ると、木々の紅葉が始まっている。
まだ、制服のジャケットだけでも大丈夫だけど、これからどんどん
寒くなっていくんだろうな。
アイスを食べに行ったのは、
「もう一か月くらい前になるのかな」
「うん、二学期始まったばかりだったもんね」
藤田が笑う。
今日はいろんなことがあったなぁ。
私たちは少し話して、またあの時のように駅で別れた。
「また、明日ね」
「うん、気を付けて帰れよ」
ちょっと男の子らしい言い方。