好きなんかじゃない
林務官の家
「みゆうちゃん、どうしたの?」
ある日の朝、私が登校してくると下駄箱の前で槇原さんが固まっていた。その日は少し遅くなってもう昇降口には槇原さんしかいなかった。だから無視するわけにもいかなくて声をかけると槇原さんは戸惑ったように振り向いた。
「あ、マリちゃん。ねえ、これって」
槇原さんは自分の下駄箱の中を指さした。私が覗き込むとそこには
「うえっ!」
ばらばらになった蜘蛛が死んでいた。というよりも
「これ、誰が入れたの?」
蜘蛛が自分からバラバラになるはずないもの。私が聞くと、槇原さんは顔を青くして言った。
「知らない。私、知らない。」
必死に首を振っている。本当に知らないのかな、なんか怪しい。ゆりちゃんなら無理にでも聞くんだろうけど、私はそれよりも死んでいる蜘蛛がかわいそうだった。そういえば槇原さんと死んだ蜘蛛をみるのは二度目だな。
「どうしよう。これ」
槇原さんは不安そうにつぶやいた。
「お墓つくろうか?」
槇原さんが驚いた顔でこっちを見て、そしていきなり笑い出した。
「え!?どうしたの?」
「だってぇ。お墓って!なんか、怖いと思ってたのがばかみたい!。」
しゃがみこんで笑い出した。そう言いながら目からはぽろぽろと涙が数滴こぼれていた。
「私、いつもこうなんだ。」
「え。うん……」
明らかに笑いすぎて出る涙じゃない。槇原さんは涙を指先でまつげから払い落してあきらめたようにそう言った。
「いいよ。それでいいんだ。ありがとう。でもごめんね。お墓は作らないよ。かわいそうだけどこの子はごみ箱に捨てよう。」
槇原さんが天井を見上げてそう言った。。
「私、箒持ってくるね。」
「うん。ありがとう。」
そう言って私は逃げるように昇降口の掃除用具入れに向かった。箒……と、ちりとりを持って槇原さんのところに戻ると、槇原さんは下駄箱の中の蜘蛛をじっと見つめて私に
「ひどい事するね。」
と、言って見せた。
「蜘蛛がかわいそうだ。」
「本当にね。私がいなければこんな目にあうこともなかったんだから、ごめんね。」
槇原さんは蜘蛛を直視できないらしく、少し目をそらして一歩引いて見ている。
「はい。」
私が差し出したちりとりを槇原さんは受け取って蜘蛛をひょいとすくい上げた。小さな破片は私が横から箒でちりとりに掃き入れる。槇原さんはかわいそうと言いながらも大して未練もなさそうにごみ箱に入れて見せた。
「これでいいのかな?」
私がそう聞くと槇原さんは困ったように微笑んで見せた。
「蜘蛛は許してくれないね、きっと。」
いやがらせに怯えているというよりも蜘蛛がかわいそうという文脈で槇原さんは言った。
「いつもの弱虫の私なら出来なかったよ。でも今日はあなたがいてくれた。ありがとう。」
「……いや、私は、何も。」
「ありがとう。」
そう言いながら槇原さんの指先は震えていた。その様子に私は煮え切らない返事しかできない。
ある日の朝、私が登校してくると下駄箱の前で槇原さんが固まっていた。その日は少し遅くなってもう昇降口には槇原さんしかいなかった。だから無視するわけにもいかなくて声をかけると槇原さんは戸惑ったように振り向いた。
「あ、マリちゃん。ねえ、これって」
槇原さんは自分の下駄箱の中を指さした。私が覗き込むとそこには
「うえっ!」
ばらばらになった蜘蛛が死んでいた。というよりも
「これ、誰が入れたの?」
蜘蛛が自分からバラバラになるはずないもの。私が聞くと、槇原さんは顔を青くして言った。
「知らない。私、知らない。」
必死に首を振っている。本当に知らないのかな、なんか怪しい。ゆりちゃんなら無理にでも聞くんだろうけど、私はそれよりも死んでいる蜘蛛がかわいそうだった。そういえば槇原さんと死んだ蜘蛛をみるのは二度目だな。
「どうしよう。これ」
槇原さんは不安そうにつぶやいた。
「お墓つくろうか?」
槇原さんが驚いた顔でこっちを見て、そしていきなり笑い出した。
「え!?どうしたの?」
「だってぇ。お墓って!なんか、怖いと思ってたのがばかみたい!。」
しゃがみこんで笑い出した。そう言いながら目からはぽろぽろと涙が数滴こぼれていた。
「私、いつもこうなんだ。」
「え。うん……」
明らかに笑いすぎて出る涙じゃない。槇原さんは涙を指先でまつげから払い落してあきらめたようにそう言った。
「いいよ。それでいいんだ。ありがとう。でもごめんね。お墓は作らないよ。かわいそうだけどこの子はごみ箱に捨てよう。」
槇原さんが天井を見上げてそう言った。。
「私、箒持ってくるね。」
「うん。ありがとう。」
そう言って私は逃げるように昇降口の掃除用具入れに向かった。箒……と、ちりとりを持って槇原さんのところに戻ると、槇原さんは下駄箱の中の蜘蛛をじっと見つめて私に
「ひどい事するね。」
と、言って見せた。
「蜘蛛がかわいそうだ。」
「本当にね。私がいなければこんな目にあうこともなかったんだから、ごめんね。」
槇原さんは蜘蛛を直視できないらしく、少し目をそらして一歩引いて見ている。
「はい。」
私が差し出したちりとりを槇原さんは受け取って蜘蛛をひょいとすくい上げた。小さな破片は私が横から箒でちりとりに掃き入れる。槇原さんはかわいそうと言いながらも大して未練もなさそうにごみ箱に入れて見せた。
「これでいいのかな?」
私がそう聞くと槇原さんは困ったように微笑んで見せた。
「蜘蛛は許してくれないね、きっと。」
いやがらせに怯えているというよりも蜘蛛がかわいそうという文脈で槇原さんは言った。
「いつもの弱虫の私なら出来なかったよ。でも今日はあなたがいてくれた。ありがとう。」
「……いや、私は、何も。」
「ありがとう。」
そう言いながら槇原さんの指先は震えていた。その様子に私は煮え切らない返事しかできない。