好きなんかじゃない

 私と槇原さんも藤田を見習って屋上にペタンと座り込んだ。見上げてみるとみると青い空が広がっていて、秋の優しい太陽の光の中を鳥の群れが飛んでいくのが見える。うん、少し寒いけど日差しも強くなくてこのくらいが一番いい季節かもしれない。曲げていた首を戻すと吹く風に槇原さんの長いサラサラの髪が吹き上げられているのが見えた。槇原さんはそっと乱れた髪を押さえた。

「槇原さんの髪、綺麗だね」

槇原さんは少し照れたようにうつむいた。長いまつげが瞳に影を作る。

「そうかな……?」

「うん。綺麗だよ。長くてさらさらで」

「マリちゃんも伸ばせばいいのに。私、似合うと思うな」

「私は……伸ばしたことあるんだけど毛先が跳ねちゃって。上手くいかないんだ」

「それでも、似合うと思う。ね?私とお揃いにしない?」

「うーん。ゆりちゃんとお揃いになるほうが早い気がする。ゆりちゃんは髪はストレートだけどいつも寝癖ついてるからなあ。本当はゆりちゃんもきれいな髪なんだけどね」

「……触っていい?」

 槇原さんは私の返答を聞く前に私の正面に座り込んでそっと私の髪に触ってきた。槇原さんの白い細い指が私の耳をかすめて毛束をひと房とって毛先まで滑らせる。槇原さんの手から離れた髪が私の顎をくすぐった。

「まりちゃんの髪も好きだよ」

「あ、ありがとう」

 正面から至近距離で言われたので、なんだか照れてしまった。槇原さんは私を見つめている。なにか話さなくちゃ……

「え、っと……藤田寝ちゃったね」

「いや、起きてるけど?」

「わっ」

 藤田は普通に目を開けて返事をした。

「あれ? 起きてたんだ。目を閉じてるから寝てるかと思っちゃったよ」

 槇原さんは大して驚いた様子もなくそう言った。

「やることないし、それにまだ朝だし」

それはそうだけど……紛らわしいなあ。藤田は飽きたのか、上体を起こして、うーんと言いながら伸びをした。セーターとシャツが引っ張られておなかが見えた。私はあわてて目をそらす、と先にいた槇原さんと目があった。
 槇原さんはやっぱり困ったように笑った。それから私の髪の一房を指差す。

「ねえ、三つ編みにしていい?」

「うん」

 槇原さんが私の頭の右側を編んでいる。私の髪は肩につくくらいで短いからすぐに終わっちゃう。そしたらもう片方も編んでくれた。

「できた! 鏡があったらマリちゃんにも見せてあげられるのに」

 槇原さんが残念そうに言う。うーん、トイレにならあるけど行くと多分、見つかるしなあ。
あ、そうだ!
 私は寝転がって目を閉じてる藤田に駆け寄った。

「ねえ! 藤田、藤田!」

「うーん?」

 藤田が眠そうに返事する。
あ、ほんとに寝てたんだ。さっき寝ないとか言ってたのに。

「槇原さんに髪編んでもらったの。どう?」

藤田が眩しそうにうっすら目を開ける。ふっと笑った。

「あー。かわいいね」

「本当!?」

 嬉しくて思わず聞き返した。

「うん、かわいい……」

 手を伸ばして指先で私の髪をすくって、柔らかく微笑んだ。びっくりして声が出た。

「あっ……」

 藤田はそのまま手をだらんと下ろすと目を閉じて眠ってしまった。

「あーあ、藤田くん寝ちゃったね。」

槙原さんが藤田の顔を覗き込んだ

「ね、マリちゃん、私の髪も編んでくれる?」

「うん、いいよ」

「かわいくしてね」

槙原さんの何気ない言葉に指がもたついた。
 さっき藤田に可愛いって言われた、2回も……。人にそうやって言われたの初めてかもしれない……。

 結果、槙原さんは文句なしにかわいいんだけど、なんだかうまく言えないけど、
恥ずかしい……ような?
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