綴る本
 食材が詰まった買い物袋を片手で持ち、柚燐は家に向かっていた。家には愛しい人が待っている。自分の料理を食べてくれる人がいるというのはなんとも幸せな気持ちになれる。
 顔が緩んでしまうのを自覚するも止めるつもりのない柚燐が、突然止まり首を傾げた。
「あれ……? 私、誰に料理してたのかな? ん、一人暮らしなのに誰に作るんだろ。変なの」
 先程とは一変してもはや由良の記憶が柚燐から失われてしまった。緩んでいた顔も消えている。
 あれほどまでに愛していた男性を彼女はこうして失ってしまったのだった。
 夕焼けに染まる中、彼女の影が止まった場所から長く伸びていた。
< 6 / 38 >

この作品をシェア

pagetop