黒王子は私を離さない。
*Episode.01*
* 出逢い *
::葵唯side::
「わぁ……!」
入学式日和の晴れ渡った空、眩しい太陽。
柔らかな日の光に照らされた、どこか怪しげな趣きを感じさせる校舎。
校門から玄関まで続く石畳の両脇にはたくさんの桜の木が並び、春風に乗った花びらがひらひらと柔らかく舞い落ちる。
目の前に広がるその圧巻の景色に、私は目を奪われたまま、校門の前で立ち尽くしていた。
今日から私、ここに通うんだよね……。
未だに信じられない。
高鳴る鼓動を感じながら、そっと瞳を閉じて深呼吸を一つ。
「……よしっ」
閉じた瞼をゆっくり開けて気合いを入れ直した私は、軽やかな足取りで校門をくぐり抜けた。
──────────私は香坂葵唯、今日から高校1年生。
私が通う紅海学園は、文武両道のスーパーマンが数多く在籍する国内有数の名門高校。
学業も部活もトップクラスの紅海学園は中学生に大人気で、毎年かなりの倍率を誇っている。
そんな偏差値高め、倍率高めなこの学園に何の取り柄もないこの私が受かったのは奇跡に近いと言っても過言じゃない。
偏差値が足りてなかった私はそれはもう必死に勉強して勉強して、なんとか合格できたほど……。
そこまでして、この紅海学園にこだわったのには理由がある。
それは──────────
「1年B組の教室はこちらです」
あっ……。
-トクンッ。
懐かしい、この胸の疼き……。
教室を目指して校舎内をズンズン進んでいた私の足は、角を曲がると同時に止まった。
ずっと会いたかった、大好きなあの人を見つけたから──────────
「おはようございます」
明るい挨拶で入学生を出迎え、教室の中へと誘導するその人。
爽やかな笑顔、癒される声、好青年な先輩に似合うサラサラの黒髪……すべてがあの時のままで。
込み上げてくる嬉しさに、私は大好きなその人の名前を呼んだ。
「依織先輩!」
名前を呼ばれた当の本人は、私に気づき、驚いた様子で目を見開いた。
「葵唯……!?」
たった1年会わなかっただけなのに、随分会っていなかったように感じる。
また先輩のその瞳に映れて、その声で名前を呼ばれて……ほんとに幸せ。
「お久しぶりです!」
「あ、あぁ……久しぶり」
私は、未だに目をまん丸にしたままの依織先輩の元へと駆け寄り、先輩を見上げた。
私がこの紅海学園にこだわった一番の理由……。
それは、この早瀬依織先輩と同じ学校に通いたかったから──────────
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