黒王子は私を離さない。
* * *

-3年前。

1つ年上の依織先輩との出会いは、私が中学1年生の頃、友達に誘われてサッカー部のマネージャーになった時。

はじめは慣れない仕事で毎日が慌ただしく過ぎていき、依織先輩の存在に全く気づいていなかった。

……だけど、ある日──────────

いつものようにグラウンドの脇で転がってきたボールをせかせか拾っていると……。

「葵唯! 危ない!!」

「……え?」

黙々とボール拾いをしていた私は、私の名前を叫ぶ友達の声に、少し反応が遅れてしまった。

危ないって、何が……──────────!?!?

顔だけ振り返った私の目の前には、勢いよくこちらへ向かってくるサッカーボール。

でも、そのことに気づいた時にはもう遅くて……。

ぶ、ぶつかるー!!!!!

私は反射的に頭を抑えてギュッと目を瞑った。

-バンッ!

ひぃっ!!

……………………。

……あれ?

痛く、ない……。

「ふざけてないで集中しろ! 香坂に当たるとこだったぞ!」

-ビクッ。

間近で聞こえた誰かの注意する声に、私は思わず肩を揺らした。

ゆっくり目を開けてボールが向かってきていた方向へと目を向けてみると、そこにはもうボールはなくて。

代わりにあるのは、誰かの背中。

誰……だろう?

背中だから誰なのかはわからないけど、あの迫り来るボールから私を守ってくれたのはきっと……いや絶対この人だ。

「すいません! 香坂もごめんな!」

ん? ……私?

香坂という名前に反応して、私は目の前の人の背中からひょこっと顔を出す。

遠くではサッカー部の先輩が手を合わせながら申し訳なさそうに顔を歪めていた。

きっと私の方へボールを飛ばしてしまった人だろう。

友達とふざけ合って、グラウンドの隅までボール飛ばしているところを何度か見たことがある。

「大丈夫です!」

私は心配させないように笑顔で返した。

わざと私に向かって蹴ったわけじゃないし、私も周り見てなかったからね……。

「いきなりボール向かってきて怖かったよな……大丈夫?」



頭上から聞こえてきた優しい声に、私はふと声の主を見上げた──────────

っ!!

-ドクンッ。

見上げたと同時に、私はピタッと固まってしまった。

だ、誰この人……!

イケメンすぎて眩しい!!

心配そうに眉根を寄せながら私の顔を覗き込むその人。

私をボールから守ってくれたその人こそ、当時サッカー部のエースだった依織先輩。

カッコよくて優しくて、誰にでも慕われていて……そんな依織先輩を好きになるのなんて、あっという間だった──────────
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