黒王子は私を離さない。
* * *

「葵唯が紅海(うち)目指してるなんて聞いてなかったから驚いたよ」

依織先輩の顔はビックリ顔から一転、ふっと緩められて、私の大好きな笑顔に変わっていた。

あぁ……またこの笑顔を生で見られるなんて……。

私は久しぶりの幸せ気分にどっぷりと浸りきる。

「あれ? 言ってなかったですっけ?」

……なんて。

紅海学園を目指してること、依織先輩には1回も言ったことないのに。

私は先輩にバレないように、とぼけたフリをして誤魔化した。

受かるなんて自分でも思ってなかったから、落ちてしまった時の事を考えると、先輩に言うのは控えてたんだよね。

「いや初耳。……まぁ、とにかく、入学おめでとう」

-キュンッ。

依織先輩から向けられた大好きな笑顔。

中学生の頃のように、私は一瞬にして心を鷲掴みにされた。

依織先輩がいるこの学園で、また楽しい学校生活が始まる……。

そう考えただけで顔の緩みが止まらないよ──────────
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