黒王子は私を離さない。
* * *

ーザワザワ……。

入学式も無事に終え、未だに人でごった返す校庭。

うぅ……。

目の前には、人、人、人、人……。

大勢の人集(ひとだか)りを前に、呆然と立ち尽くす私。

目的地である校門が全く見えない……。

「はぁ……」

どうしよう……?

「あ! 葵唯ー!」

落ち込みながら深いため息をついてすぐ。

背後の昇降口から聞き馴染みのある声が聞こえてきた。

この声は!

その明るい声に勢いよく振り返れば、そこには予想通りの見慣れた美人さん。

祐希(ゆき)ちゃん!」

整った小顔にスラッとモデル体型の、どこから見ても完璧なこの美女は、小学生の頃からの大親友・深川(ふかがわ)祐希ちゃん。

学年で上位に入るほど頭も良くて、運動神経も抜群……まさにこの紅海学園に相応しいパーフェクトガール。

「そのあからさまな喜びの顔」

グレージュのサラサラショートヘアを風になびかせながら、祐希ちゃんはふっと微笑んだ。

「祐希ちゃ~ん!!」

ーギューッ。

喜びのままに勢いよく祐希ちゃんに抱きつく私。

よかったぁ……祐希ちゃんまだ帰ってなかった。

こんな人混み、私一人じゃ無事に帰れる気がしないもん。

「きっと葵唯は一人で帰れずに昇降口であたふたしてるんだろうなーって思ってたよ」

祐希ちゃんは優しく目を細めて私の頭をポンポンと撫でた。

祐希ちゃん……。

「祐希ちゃんが神様に見える~」

「はいはい。ほら、一緒に帰るよ」
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