星のキミ、花のぼく
数十秒の呼び出し音。亘が電話に出る気配はない。
しかたなく一度通話を切ると、そんな俺の様子を見て少し安心したような素振りを見せたコイツに、俺は見下したような笑みを向けた。
「……ラッキーだね。マネージャーからの折り返しが入るまで、アンタの言い分、少し聞いてやるよ。」
一瞬の安堵さえも許さない俺の気迫に、コイツはまた、顔を強ばらせる。
そして、少しうつむいたあとで、顔をあげた。
「私は、あなたをどうこうするつもりもないし、どうしようとも思ってません!今後、関わることもしたくありません!」
それは拒絶の言葉か、嘘か、本音か。
どうこうするつもりもないと言われても、まったく素性を知らない他人を素直に信じられるわけがない。
「あの、なるべく穏便に済ませたいんですが……別にあなたが有名人だからとか、そういうのじゃなくて、ただ単純に私は事を大きくしたくなくてですね………あの、疑ってます、よね?」
「………は?」
黙って聞いていてやれば、突然に降りかかる俺への疑いはなんだ。無礼なヤツ。
「あの、ほんとに……私は何も」
「いやいや、何もしない!関わりたくない!って普通に信じられないよね?信じろっていうほうが無理だよね?」
だって、自分で言うのもおかしな気分だけど、俺は一般人がうらやむアイドルをしているわけだ。
「俺のこと、どこにどんな情報流すかわかんないじゃん?俺にとっては危険すぎるよね、この状況。あんたには得しかないけど、俺にとって得なんか全くないし、てか損しかないし、損っていうか、危機的状況?俺、被害者だよね?」
「いや、あの、私にも得なんてぜっんぜんないんですけど。そっちが被害者だって、決めつけないでください。こっちだって被害者ですよ!」
キッと俺を睨み付けるその瞳。それが演技ならその演技力、素直に尊敬する。
憎悪に満ちた瞳、演技以外でそんな瞳を向けられることなんてそんなにないから、思わず怯んだ。
「あなた、勘違いしてるみたいですけど、あなたが芸能人だろうとアイドルだろうとどんなに容姿が整っていようと、私、全く興味がないです。」
自惚れるな、とでも言いたげな瞳。
「私に個人情報知られて困ってるみたいですけど、私もここで大事にされたら困るんです。あなたはあなた以外の替えがきかない存在でも、私は違うんです。代わりなんていくらでもいる。ちょっとしたことで私の日常が揺らぐんですよ、日常が日常じゃなくなるんです。」
日常………自分とは正反対の世界か。
「困るんです、内定をもらったばかりなんです。トラブルを起こしたくないんです!」