星のキミ、花のぼく
私は大学4年で、来年からの就職先の内定をもらったばかりだ。

こんなときに、下手な噂になんてなれない。

そもそも、昨日の夜、すべては無理矢理に押し付けられたこの1枚の紙に問題がある。

そして物事の判別もつかないほどに酔っていたこの男にも問題がある。

昨夜の出来事を思い出すと、ふつふつと怒りがこみ上げてくる。

どうして私が責められなければいけないんだ、悪いのは自分自身の管理がなっていない、このだらしない男がすべて元凶で、私はただ単に巻き込まれただけにすぎないじゃない。

「そもそも、昨日の夜のこと覚えてますか?自分がどんな風に私に突っかかってきたか!あの場で警察を呼んでいればよかった。」

どうしてこんなことになっているんだろう。

昨夜、胸につっかえて苦しい気分を、少し晴らせたらいいなと思って、馴染みもない、入ったこともない、地下へつづくバーの扉を開いた。

出迎えてくれた白髪混じりのマスターが親切にカウンターに案内してくれて、初めて味わう空間でも、塞がった気持ちのなかに少しだけ光が差し込んだ気がした。

好みを聞いてくれて出していただいたカクテルが美味しくて、久しぶりにも感じられる小さな喜びに気分がちょっぴり高揚したときだった。

急にひとつはさんだ隣のカウンターチェアが引かれた。

そこに現れたのは、恐ろしく顔の整ったひとりの男だった。

暗めの室内でもわかる、その顔の美しさ。

そして彼の顔は、普段テレビで見るそれよりも赤い気がした。どこかで飲んでから来たのだろうか。

私もお酒が入っていた。酔っていなかったとは言えないし、普段の私ならその場で迅速な判断が下せたのだろうか。

きれいな人だな……そんなことを思いながら、カクテルに口をつけていたら、ふと美しい男が私をその瞳に捕らえた。
< 13 / 22 >

この作品をシェア

pagetop