星のキミ、花のぼく
「お前でいい、ケッコンしてくれ」
自分の耳を疑った。突然のことで、それは私に向かって言っている言葉なのか、何を言われているのか、咄嗟に理解することができなかった。
男はけだるそうに肩にかけてきていたバッグのなかから、1枚の紙を取り出した。
何やら色々な欄がある用紙に、男はすらすらと文字を記入していく。
あまりにも真剣なその様子に、どうして美しい男が字を書いている姿なんて見ているのだろうと、夢見心地のほろ酔い気分で、なんだか現実味がなくて、先ほど発せられた言葉も気のせいだったかと、再びカクテルに口をつける。
「ほら、お前も書け」
「え?!」
急にぐいっと腕を掴まれ、男のほうを向かされた。
そのとき初めて気がついた、この美しい男、いまをときめく芸能人の悠星じゃないかと。
一瞬見惚れて、だけどすぐに彼が私の腕を掴んでいるその力に現実に呼び戻される。
「え、ちょっ、痛い!!何するっ」
「書けよ、いいから。俺と結婚しろ」
再度、その口から発せられた言葉。
聞き間違いだろうか?いや、今のは絶対に聞き間違いじゃない。でもこれは、酔った私の夢だろうか?
「はやく、これ書けよ」
悠星は苛立った様子で私になにやら紙をつき出してくる。
「いや待って、離して!痛い!ってゆうか急に何?!」
ギリギリと骨が軋むんじゃないかってくらい、悠星の力が強い。一体、急になんだっていうんだ。
状況がわからず、痛い、離してと訴える私と話の埒があかないと思ったのか、悠星は私の腕を放すと、そのまま拳を机にガンッと突き立てた。
「いいから、書けって言ってるだろ」
怒気を含んだその言葉。その形相に私は声を発せられない。
まるで脅しのようじゃないか。
彼が私に押し付けてきたのは、必要事項を記入して、捺印までされた婚姻届だった。