星のキミ、花のぼく
思い返してきたら、フツフツと沸いてくる怒りが止まらない。
どうして私は、こんな身勝手な男に振り回されないといけないんだ。
「婚姻届押し付けてきて、半ば強引に迫ってきて、何だっていうのよ。私はこれから自分の人生を歩もうってときに、どうしてこんな変なヤツの人生に巻き込まれなきゃいけないの!」
「変なヤツって、それ俺のことかよ」
「そうに決まってるでしょ!!!あなた以外、誰がいるっていうの!!!」
怒り任せに言葉を発していると、不思議と、目の前の芸能人に対する動揺が消えている自分に気づいた。
テレビと違ってノーメイクなせいか、よく見ればうっすらクマがあるその顔。ニキビ跡もある。普通の人間じゃない。私となにも変わらない。
すっと冷静になる自分がいた。
そうだ、この場を穏便に済ませたい。そうするためにはキレイさっぱり、この男のことを忘れることを誓えばいい?
「私は、普通の人生を過ごしたいんです。とりわけ華のある生活なんていらないの。だから、昨日の夜のことも、婚姻届のことも、いまのこの状況も、明日になったら全部忘れます。」
「だから、そんなの、信じられるわけないだろ」
「あなたが何に怯えてるかわからないけれど、私と違って、あなたの後ろには守ってくれる事務所があるでしょう。私には何もないのよ、武器も盾も何もない。だから、何かをして信じてもらうことはできないのかもしれないけど、でも、何もしないことで、信じてもらえない?」
自分でも、交換条件になっていないとわかっている。
だけど、私には差し出すものがなにもない。地位も、名誉も、お金も……だったら、何もしないことで信じてもらうしかない。
「私に時間をくれれば、私があなたに何もしないって証明するわ。1か月でも、1年だっていい、こっそり私に探偵でもつけて見張ればいいわ。監視してくれればいい。私は、本当に何もしないから。」
探偵を雇うくらい、事務所のほうでなんとかするでしょう。
私を監視して、本当に興味がないってわかってもらえれば、それがお互いにとっていちばん良いのではないか。