星のキミ、花のぼく

「それじゃ、つまらないし。俺にとって何も得がない。」

何もしないことで信じろって、そんなの何も根拠がないし、俺には何も利がないし、つまらなすぎる。

悪人は、とことん追い込んでこそ、その真価がとわれるものじゃないか。

コイツに何か危害を与えられるかもしれない、何もしない、なんてそんなこと信じられるわけもない。

そうだ、だったら……コイツに何かをさせる役目を与えればいいのか?

「わかった。何もしないっていう、お前のことはとりあえず信じてやる。けど条件がある、取引だ。」

何もしないでおくよりも、何かさせたほうが、はるかに良い。

それでもし変なことでもしたら、それはそれで好都合。何もしないって主張は嘘だったってわかって弾劾できる。

「何もしないってことを証明するために、俺のために何かしろ。必死になって、俺の役に立て。」

我ながら、なかなか良い案じゃないかと思う。

俺に何か危害を与えるような不穏な存在じゃなくて、俺にプラスの何かをもたらすような役割をしてもらえばいいんだ。

「……ちょっと、言ってる意味がわからない。私はもう関わりたくないって」

「だから、俺のこと知っちゃったんだから、もう知らなかったこと、なかったことにはできないだろ。関わってしまったことを、なしにはできない。だったら、俺のためになることをして、俺に危害を与えないって証明しろよ。」

体のいいパシりになってもらえばいい。

普段、自由に動けない俺の代わりに、コイツにいろいろやってもらえばいい。

「よし、そうと決まったら、お前もこれ、はやく書いて。」

書けと促したのは婚姻届。これも逆の考えで、俺が怯える必要はなくて、コイツを縛るものにすればいい。

「ちょっと、待って、意味が…」

「お前、騒がれたくないんだろ。俺みたいなアイドルと結婚、なーんてなったら大変な騒ぎになるだろうよ。提出さえすれば夫婦になれちゃうような婚姻届を俺が持ってたら、お前は気が気じゃないんじゃないの?」

自分の分を書いたら出せるような婚姻届を、わざわざ俺のところまで返しにきたんだ。

コイツは俺と、結婚したいって思ってるようなミーハーではないことは信じてやってもいいだろう。

それなら、だ。本気で俺とどうにもなりたくないって言うのなら、逆にこれは、俺がコイツを縛る道具になるんじゃないか。
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