星のキミ、花のぼく
「悠星と柚乃のスキャンダルの件は事実無根だって、どうにか向こうの事務所に取り下げてもらえそうだというのに……今度は婚姻届がどうしたって?お前は一体何を考えているんだ!」
おそらく、スキャンダルの件のせいで、昨夜は一睡もしていないのだろう。
目の下にうっすらとくまをつくった亘のお怒りの表情は迫真、鬼気迫るものがある。
「いやだから、俺なりに考えたんだって……」
怒られるだけ怒られて、しぼられて……事務所から解放された俺は、この愚かな脳みそで少しは考えたんだ。
だから今、こんな事態に陥っているわけで……。
「まあいい、怒ることにも疲れた。貴様の言い分を聞くだけ聞いてやることにするよ…」
やれやれと宙を仰いだ亘は、大きな溜息と共に、俺の目の前にあるソファーに腰を下ろした。
そのどうしようもなくアホな脳みそで考えたことを言ってみろと、亘の挑戦的な視線が俺を煽る。
「だから、俺もその、スキャンダルをなんとかしなくちゃなぁ~って思って……」
亘のこめかみにぴしっと筋が走ったような気がしたけど、この際見て見ぬフリをすることにしよう。
「俺はアイドルだし、人気商売だし…女性関係のスキャンダルには人一倍気をつけなくちゃいけないことはわかっている。だから……」
「だから?」
言葉を濁した俺に、亘の先を促す言葉が矢のように刺さる。
ああ、亘が俺のことをどんなアホだと思っているのかが、よくわかるよ。
「だから誰かと騒がれてどうこう言われるよりは、いっそのこと、ケッコンして身を固めてしまえばいいんじゃないかって思ったんだ。」
数秒の沈黙。亘のその厳しい表情は変わらない。
「……ああ、お前は本当にアホなんだな。」
「……俺も、亘を見てるとそうなんじゃないかって思うよ☆」
少しおどけてみせたのだが、亘はニコリともしてくれなかった。
「それで、お前は昨日事務所を出た後その足で、役所に走ったとでもいうのか?」
「いや、流石にここからじゃ少し遠いから、タクちゃん捕まえて行ったよ」
言葉をなくした亘の表情を見て、受け答えに間違えたことに気がついた。
「……ああ、そうだよ。昨日めちゃくちゃしぼられてへこんで、考えて、半ば投げやりに!事務所出たあと俺は、役所に婚姻届もらいに行ったんだよ!」
「アホか!お前は、本当に心の底からアホだな!」
いや、そんなに頭ごなしに怒鳴られるほど俺、アホじゃないと自分では思っているんだけどな。
ほらいま、こうしてすぐ怒鳴る亘よりは冷静に物事を見つめられていると思うし。