星のキミ、花のぼく
「で、その相手は誰なんだ?」
もういい、お前のアホな言い分はこれ以上聞きたくないと耳を塞ぐように、亘は結論まで急ぐ。
「誰って言われても、……わからない。」
「………はい?」
「いや、だからぁ……俺はそのあと行きつけのバーに行って、飲んで、それで……」
言葉を濁しながら結論にたどり着くまでの時間稼ぎをしてみるけれど、頭の良い亘のことだ、なんとなく俺の言わんとしていることを察したのだろう。
亘の俺を見る瞳がより一層厳しくなって、俺は苦しい言い訳はやめることにした。
「………バーのオーナーに聞けば、わかるかも、……かも…しれない」
だって、ベロベロに酔っていたんだ。そもそも、意識がはっきりとしていたのならこんな事態に陥っていないだろう。
「つまり……酔っていて覚えていないんだな、相手のこと」
「そういうこと、ですね。だから…」
だからこれはやばいなって、焦って事務所に来たんだよ。
その言葉は亘の「こんのドアホ!!!」という怒鳴り声に遮られて、言わせてはもらえなかった。
「顔見知りの女ならまだしも、お前はどこの誰ともわからないヤツと結婚しようとしたってわけか?! 酒が入っていたとはいえ、常識的に考えてみろ。本当に、お前はアホとしか……」
あまりにも衝撃的だったのか、亘は頭を抱えて言葉をなくした。
……だから、俺も、アホなことをしたとは思っている。
たまたまバーで近くに座っていた女性に、自分の必要項目を書き満たした婚姻届を押し付けて来てしまったのだから。
女性が自分の分を記入して、役所に届け出れば、書面不備なしでまもなく受理されることだろう。
印鑑も、しっかりと押した記憶があるし……。
「……まぁ、仮にもお前は芸能人だし、過激なファンが勝手に届け出たものだといえば、取り消せないこともないだろう…。その件は、どうにかなるだろう。実際、過去にそのようなトラブルはあったし…。」
ハァ……と、亘は大きな溜息をついたあと、ゆっくりと立ちあがった。
「スキャンダルの件もあと少しで片付きそうなんだ、頼むから……少しの間、大人しくしていてくれよ。」
いつも強気な亘が、ふいに懇願するような弱気な表情を見せたため、俺は静かに頷いた。
それから、亘から数日のスケジュールの変更が伝えられた。
リスケによる不意のオフ……。
しかしこれは、実質的な自宅謹慎を言い渡されたってところだろう。
話の終わりに、「本当に、大人しくしていてくれ…」と再度、念を押されたのだから。