星のキミ、花のぼく
亘が手配してくれたタクシーに乗り込み、俺は大人しく自宅のマンションまでと行き先を告げた。
昨日の今日で……少しは反省したのかもしれない。
反発心に促されて、思い立った行動をするようなことはもう、やめようと思った。
次の仕事まで、家でゆっくりしていよう。
俺の部屋は高層マンションのわりと高い階の部屋だし、外の景色がよく見える。
数日部屋にこもって忙しない都会の喧騒を、上からぼんやり見下ろしていたって、飽きることはないだろう。
いや、理由は決して喜べるものではないとはいえ、久しぶりのまとまったオフなのだ、時間がなくてずっと見ることができずにいた映画やドラマを一気に見てしまおう。
暗い感情をひきずらない、ポジティブ思考な俺は、タクシーが、マンションのエントランスにすべり込む頃には、久しぶりのオフを満喫することで頭がいっぱいだった。
だから、タクシーから降りるまで気が付かなかった。
エントランスの自動ドアの前、ひとりの女が1枚の紙を握りしめて俺を見据えていることに。