わかれました🔒
(むかつくむかつくむかつく)
いつも通りの日々、いつも通りの帰り道。いつも通りじゃなかったのは学校でのこと。いや、ある意味いつも通りなのだが。
(なんであんなブスに仕事押しつけられなきゃいけないのよ)
真っ黒なショートカットに真っ赤な口紅、ナタデココのように白く綺麗な肌とぱっちりとした二重のその女性は顔に似合わぬドスドスとした足取りで帰宅していた。
(何が「かれぴっぴっとデートだから当番代わって♡」だ早く別れろ浮気されてしね)
少々過激な面のある彼女だが、顔やスタイルが良いため言い寄る男は後を絶えない。
(私も早く愛しのぴっぴと連絡取りたいわ通話したいわ!)
人通りのない道に出たところ、左右を見渡した後にスマホを取り出した。
(はあ〜今日もかっこいい。私の私だけの彼氏。早く家に帰って通話したいなあ。)
Twitterの写真を眺めながら歩く。その角を曲がって少し行けばすぐ家に着く。
(彼は学校終わったのかな。同じ学校ならよかったのに。ネットで知り合ったから遠距離なのは仕方ないけどさ…。)
そうこうしているうちに家につき、鍵を開けて家に入る。両親は不在、兄弟はいない。鍵をかけて靴を脱ぎ、自身の部屋に入る。
「はあ〜つっかれた!やってらんないよ!」
ストレスからつい独り言が漏れてしまう。
「彼に電話かけよっと!」
嬉々として電話をかけてみる。普段ならコール音がするはずだが、今日はすぐに切れてしまった。不思議に思い画面を見ると、相手は通話中ですと表示されている。
「…は?」
(なんでなんで誰と通話してるの私に連絡してくれてないじゃんなんで誰なんの話ししてるのいつからしてたの私を優先してよ早く私にかけ直してよ)
強いストレスを感じ、スマホを床に投げつけお守りのカッターをぎゅっと握る。嫌だ。切るのは痛いし跡が残るしバカらしい。わかっているからしたくない。早く彼に「ごめんね、友達から悪戯でかかってきてたんだ。」と言って抱きしめて欲しい。
1時間は経っただろうか、はたまた長く感じていただけで本当は1分ほどなのだろうか。彼からのメッセージが届いた。
「ごめん!今気づいた!友達と通話してるんだ、悪いけど今日は通話してあげられないしメッセージもそんな返せない!」
衝撃だった。自分より優先させる人がいるという事実が胸を突き刺す。自分には彼だけなのに彼は私じゃなくてもいいのだと言う。そんなのは耐えられない。ふいに立ち上がり、スマホを拾い上げる。
「Twitter…。」
彼のTwitterを見る。呟き、異常なし。リプ欄、異常なし。いいね欄、…?
「なに、これ。」
そこには、彼に空リプしたと思われる呟きがあった。
「もしかして…。」
もう一度彼の呟きを見る。今度は集中して、どんなメッセージも読みこぼさないように。
「…そういうことか。」
最近の呟き、普通の呟きのようにみえて誰かに宛てたメッセージのようになっていた。きっとDMもしているのだろう。ただ、まだ男かもしれないという希望を持っている自分がいる。
(このアカウント、調べ尽くしてやる。)
アカウントの呟き、メディア欄、いいね欄、FF欄から大体の性別や年齢を割り出していく。その結果、本名さちか、高校生の女の子ということがわかった。
「ふっざけんな!!!」
スマホを叩きつけたい衝動に駆られたがなんとか抑え込み、彼にメッセージを送りまくる。
「ねえ、誰と通話してるの?」
「いつからしてたの?」
「私の知ってる人?」
「それともさちかって子?」
「ねえ答えてよ」
「なんで今日メッセージ返せないの?」
「私より大事な人なの?」
言いたいとがありすぎて手が止まらない。嫌われるとわかっていてもどうしようもない。彼からの連絡は、ない。
(なんでなんでなんで)
苦しい、ひたすらに苦しい。彼がいるから生きてこられたのだ。つまらない日常を生きようと思えたのだ。彼が救い出してくれた。それなのにこの仕打ちはなんだ。無責任が過ぎるのではないか。カッターを持つ手が震える。もうしないと決めていた。ただのお守りとして、過去と向き合うために、未来へ進むために持っていただけのはずだ。それでも私の心はもうこれでしか救えないことを知ってしまっている。
「痛いのは嫌だよ…助けてよ…彼氏でしょ…苦しいよ…助けて…。」
足が勝手に洗面所へ向かう。鏡に真っ赤になった目と乱れた髪の女が映る。
「怖いのは嫌だよ…助けてよ…ごめんなさい…もうこんなのやだよ…嫌なのに…。」
手が勝手にカッターの刃を出す。手と歯が震える。
「助けて…。」
ぶつっと音がする。腕に生温い液体が伝う感触。もう止められない。
「うわあああああ!!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だなにが?なにが嫌なの気持ちいい助けてごめんなさい私を選んで助けて私を見て許してごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
洗面台に赤い液体が流れていく。消毒液を忘れたな、と頭の片隅で思ったがすぐに消えてしまった。しばらくして、スマホが通知を知らせた。
「さちかって誰?ただの男友達だよ。ゲームの話してたら盛り上がっちゃって。不安にさせてごめんね。」
1度腕を洗い流す。タオルで優しく拭いているうちに少しずつ心が落ち着いてきた。
「誰ってなんだよ。お前がいつもTwitterで仲良くしてる女だろしらばっくれるなよ。」
メッセージを送ると同時に通話をかける。まだ通話中。
「つらいよ。なんで構ってくれないの。」
「さみしいよ」
さみしいだけなのだ。自分より優先させる相手がいることが。私だけを見てくれないことが。
「いい加減にしろよ、友達だって言ってるだろ。」
友達と言われたらそれまでなのだ。友達であることを証明できないのと同じように、通話相手が女であることも証明できないのだから。それでも今日の朝からずっと通話することを楽しみにしていたのだ。それなのにそんなことを言われて黙っていられるほどできた人間でもない。
「浮気でしょ。知ってるんだよ、DMしてること。私あなたのアカウントログインできるもん。パスワード知ってるの。」
勿論嘘だ。彼は何度聞いても教えてくれなかった。カマをかけてみただけだ。彼からすぐに返信が来た。
「お前最低だな。」
胸に刺さる。それでも引けない。全部勘違いだと、お前だけを愛してると言ってもらう為に。
「最低なのはどっち?浮気なんてしてさ。気づいてないとでも思ってるの?自分の口からちゃんと説明してよ。」
「説明もなにも、もう全部知ってるんだろ。お前の重さには辟易してたんだよ。まじで顔と体だけの女だよな。セフレとしか思えないわ。」
「俺がいないと生きてけないとか重すぎんだよ。頭おかしいんじゃねえの。」
彼の心のない言葉が1つ1つ胸に深く刺さっていく。
「じゃあなんで言ってくれなかったの。直す努力するから私だけをみてよ。」
「無理だよ、そういうとこも重い。てか病み垢ってなんだよ。内容もポエマーすぎるし。きもいんだよ。」
無意味な罵倒。目の前が滲んでいく。もう無理なんだ。そう感じる。
「なんでそんな酷いこと言うの。」
「嫌いな奴に何言ったってよくないか。もういいだろ、これ以上お互い関わったっていいことなんか何もない。じゃあな。」
スマホを投げた。彼はもう戻ってこない。浮気だけでなく酷い言葉までたくさん言われた。挙げ句の果てに向こうの都合でさよならだ。もう生きていく意味もない。どうしたらいいんだろう。どうしたいんだろう。ふらふらとした足取りで薬箱の前に行き、タオルを外して消毒をしながら考える。
(もう、生きていく意味もない。でもここで死んだら彼はきっと笑う。)
それは嫌だった。せめて自分の死くらいは意味のあるものにしたかった。すっかり慣れた動作でガーゼを当て包帯を巻いていく。
(明日から何を楽しみに生きていけばいいんだろう。)
不思議と死にたいとはあまり思わなかった。まだ受け入れられていないだけかもしれない。
(疲れた…寝てしまおうかな。)
ベットに倒れ込む。ふかふかで気持ちいい。こんな汚れた私でも包み込んでくれる。
(私はいつも本命になれない。何が悪いんだろう。見た目は褒められるのに…いや、見た目以外褒められたことないな。)
明日から、何をしよう。そればっかりが頭の中を占める。たくさん泣いて目がシパシパしてきた。
(目、いた…開けてられない…。)
ゆっくり目を閉じる。そうだ、明日のことは考えつかないけど、今は寝てしまおう。それがいい。そうすればきっと嫌でも明日になる。
(あ、呟かなきゃ…あとあいつブロックしなきゃ)
Twitterを見たら彼が呟いていた。
「やっと別れられた。まじで重すぎ。」
「セフレには最高だったんだけどなー。」
「さちか(*´³`*) ㄘゅ♡」
傷ついた腕と胸がジクジクと痛む。もうこれ以上傷つきたくない。震える手でブロックをした。
(あとは呟いて…これでよし。おやすみ世界)
スマホの画面には「わかれました」と映っていた。
いつも通りの日々、いつも通りの帰り道。いつも通りじゃなかったのは学校でのこと。いや、ある意味いつも通りなのだが。
(なんであんなブスに仕事押しつけられなきゃいけないのよ)
真っ黒なショートカットに真っ赤な口紅、ナタデココのように白く綺麗な肌とぱっちりとした二重のその女性は顔に似合わぬドスドスとした足取りで帰宅していた。
(何が「かれぴっぴっとデートだから当番代わって♡」だ早く別れろ浮気されてしね)
少々過激な面のある彼女だが、顔やスタイルが良いため言い寄る男は後を絶えない。
(私も早く愛しのぴっぴと連絡取りたいわ通話したいわ!)
人通りのない道に出たところ、左右を見渡した後にスマホを取り出した。
(はあ〜今日もかっこいい。私の私だけの彼氏。早く家に帰って通話したいなあ。)
Twitterの写真を眺めながら歩く。その角を曲がって少し行けばすぐ家に着く。
(彼は学校終わったのかな。同じ学校ならよかったのに。ネットで知り合ったから遠距離なのは仕方ないけどさ…。)
そうこうしているうちに家につき、鍵を開けて家に入る。両親は不在、兄弟はいない。鍵をかけて靴を脱ぎ、自身の部屋に入る。
「はあ〜つっかれた!やってらんないよ!」
ストレスからつい独り言が漏れてしまう。
「彼に電話かけよっと!」
嬉々として電話をかけてみる。普段ならコール音がするはずだが、今日はすぐに切れてしまった。不思議に思い画面を見ると、相手は通話中ですと表示されている。
「…は?」
(なんでなんで誰と通話してるの私に連絡してくれてないじゃんなんで誰なんの話ししてるのいつからしてたの私を優先してよ早く私にかけ直してよ)
強いストレスを感じ、スマホを床に投げつけお守りのカッターをぎゅっと握る。嫌だ。切るのは痛いし跡が残るしバカらしい。わかっているからしたくない。早く彼に「ごめんね、友達から悪戯でかかってきてたんだ。」と言って抱きしめて欲しい。
1時間は経っただろうか、はたまた長く感じていただけで本当は1分ほどなのだろうか。彼からのメッセージが届いた。
「ごめん!今気づいた!友達と通話してるんだ、悪いけど今日は通話してあげられないしメッセージもそんな返せない!」
衝撃だった。自分より優先させる人がいるという事実が胸を突き刺す。自分には彼だけなのに彼は私じゃなくてもいいのだと言う。そんなのは耐えられない。ふいに立ち上がり、スマホを拾い上げる。
「Twitter…。」
彼のTwitterを見る。呟き、異常なし。リプ欄、異常なし。いいね欄、…?
「なに、これ。」
そこには、彼に空リプしたと思われる呟きがあった。
「もしかして…。」
もう一度彼の呟きを見る。今度は集中して、どんなメッセージも読みこぼさないように。
「…そういうことか。」
最近の呟き、普通の呟きのようにみえて誰かに宛てたメッセージのようになっていた。きっとDMもしているのだろう。ただ、まだ男かもしれないという希望を持っている自分がいる。
(このアカウント、調べ尽くしてやる。)
アカウントの呟き、メディア欄、いいね欄、FF欄から大体の性別や年齢を割り出していく。その結果、本名さちか、高校生の女の子ということがわかった。
「ふっざけんな!!!」
スマホを叩きつけたい衝動に駆られたがなんとか抑え込み、彼にメッセージを送りまくる。
「ねえ、誰と通話してるの?」
「いつからしてたの?」
「私の知ってる人?」
「それともさちかって子?」
「ねえ答えてよ」
「なんで今日メッセージ返せないの?」
「私より大事な人なの?」
言いたいとがありすぎて手が止まらない。嫌われるとわかっていてもどうしようもない。彼からの連絡は、ない。
(なんでなんでなんで)
苦しい、ひたすらに苦しい。彼がいるから生きてこられたのだ。つまらない日常を生きようと思えたのだ。彼が救い出してくれた。それなのにこの仕打ちはなんだ。無責任が過ぎるのではないか。カッターを持つ手が震える。もうしないと決めていた。ただのお守りとして、過去と向き合うために、未来へ進むために持っていただけのはずだ。それでも私の心はもうこれでしか救えないことを知ってしまっている。
「痛いのは嫌だよ…助けてよ…彼氏でしょ…苦しいよ…助けて…。」
足が勝手に洗面所へ向かう。鏡に真っ赤になった目と乱れた髪の女が映る。
「怖いのは嫌だよ…助けてよ…ごめんなさい…もうこんなのやだよ…嫌なのに…。」
手が勝手にカッターの刃を出す。手と歯が震える。
「助けて…。」
ぶつっと音がする。腕に生温い液体が伝う感触。もう止められない。
「うわあああああ!!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だなにが?なにが嫌なの気持ちいい助けてごめんなさい私を選んで助けて私を見て許してごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
洗面台に赤い液体が流れていく。消毒液を忘れたな、と頭の片隅で思ったがすぐに消えてしまった。しばらくして、スマホが通知を知らせた。
「さちかって誰?ただの男友達だよ。ゲームの話してたら盛り上がっちゃって。不安にさせてごめんね。」
1度腕を洗い流す。タオルで優しく拭いているうちに少しずつ心が落ち着いてきた。
「誰ってなんだよ。お前がいつもTwitterで仲良くしてる女だろしらばっくれるなよ。」
メッセージを送ると同時に通話をかける。まだ通話中。
「つらいよ。なんで構ってくれないの。」
「さみしいよ」
さみしいだけなのだ。自分より優先させる相手がいることが。私だけを見てくれないことが。
「いい加減にしろよ、友達だって言ってるだろ。」
友達と言われたらそれまでなのだ。友達であることを証明できないのと同じように、通話相手が女であることも証明できないのだから。それでも今日の朝からずっと通話することを楽しみにしていたのだ。それなのにそんなことを言われて黙っていられるほどできた人間でもない。
「浮気でしょ。知ってるんだよ、DMしてること。私あなたのアカウントログインできるもん。パスワード知ってるの。」
勿論嘘だ。彼は何度聞いても教えてくれなかった。カマをかけてみただけだ。彼からすぐに返信が来た。
「お前最低だな。」
胸に刺さる。それでも引けない。全部勘違いだと、お前だけを愛してると言ってもらう為に。
「最低なのはどっち?浮気なんてしてさ。気づいてないとでも思ってるの?自分の口からちゃんと説明してよ。」
「説明もなにも、もう全部知ってるんだろ。お前の重さには辟易してたんだよ。まじで顔と体だけの女だよな。セフレとしか思えないわ。」
「俺がいないと生きてけないとか重すぎんだよ。頭おかしいんじゃねえの。」
彼の心のない言葉が1つ1つ胸に深く刺さっていく。
「じゃあなんで言ってくれなかったの。直す努力するから私だけをみてよ。」
「無理だよ、そういうとこも重い。てか病み垢ってなんだよ。内容もポエマーすぎるし。きもいんだよ。」
無意味な罵倒。目の前が滲んでいく。もう無理なんだ。そう感じる。
「なんでそんな酷いこと言うの。」
「嫌いな奴に何言ったってよくないか。もういいだろ、これ以上お互い関わったっていいことなんか何もない。じゃあな。」
スマホを投げた。彼はもう戻ってこない。浮気だけでなく酷い言葉までたくさん言われた。挙げ句の果てに向こうの都合でさよならだ。もう生きていく意味もない。どうしたらいいんだろう。どうしたいんだろう。ふらふらとした足取りで薬箱の前に行き、タオルを外して消毒をしながら考える。
(もう、生きていく意味もない。でもここで死んだら彼はきっと笑う。)
それは嫌だった。せめて自分の死くらいは意味のあるものにしたかった。すっかり慣れた動作でガーゼを当て包帯を巻いていく。
(明日から何を楽しみに生きていけばいいんだろう。)
不思議と死にたいとはあまり思わなかった。まだ受け入れられていないだけかもしれない。
(疲れた…寝てしまおうかな。)
ベットに倒れ込む。ふかふかで気持ちいい。こんな汚れた私でも包み込んでくれる。
(私はいつも本命になれない。何が悪いんだろう。見た目は褒められるのに…いや、見た目以外褒められたことないな。)
明日から、何をしよう。そればっかりが頭の中を占める。たくさん泣いて目がシパシパしてきた。
(目、いた…開けてられない…。)
ゆっくり目を閉じる。そうだ、明日のことは考えつかないけど、今は寝てしまおう。それがいい。そうすればきっと嫌でも明日になる。
(あ、呟かなきゃ…あとあいつブロックしなきゃ)
Twitterを見たら彼が呟いていた。
「やっと別れられた。まじで重すぎ。」
「セフレには最高だったんだけどなー。」
「さちか(*´³`*) ㄘゅ♡」
傷ついた腕と胸がジクジクと痛む。もうこれ以上傷つきたくない。震える手でブロックをした。
(あとは呟いて…これでよし。おやすみ世界)
スマホの画面には「わかれました」と映っていた。