氷点下できみを焦がしたい
「あっ!菜乃ちゃん見て!永遠くんだよ!」
いつも通りの月曜日の朝。
私は教室の窓を張り付くようにのぞいて、たった今校門を通った王子様を見つめる。
「格好いいね、目の保養だよね」
スマホで新作コスメをチェックしていた友達の菜乃ちゃんも、私の言葉にちらりと窓の外に目を向けて、彼を視界にとらえる。
うっとりと見つめる私たちの視線の先にいるのは…。
佐藤 永遠くん。
私と同じ高校2年生で、みんなからは王子様と呼ばれている。クラスは私たちの隣。
ミルクティー色のふわふわした柔らかそうな髪。笑うと細くなる、長いまつ毛の瞳。
しっかりと制服を着た優等生で、成績は学年トップ、しかも生徒会長。
誰にでも優しくていつもニコニコしていて、儚げな雰囲気を纏った、まるで御伽噺の王子様なのだ。
そんな彼に入学してからずっと片思いをしている私は、笹木 羽瑠。
最近染めたばかりのモカブラウンの髪は肩より少し下くらい。最近はピンクのリップを塗るのがお気に入り。ごく普通の女子高生だ。
勉強ができるわけでもなければ運動ができるわけでもない、取り立てて可愛いわけでもない。
そんな私だから、永遠くんと釣り合わないことはわかっている。だからこうやって毎日見つめるだけで十分だ。