身代わり婚~偽装お見合いなのに御曹司に盲愛されています~
第五章 桜散る 不安になるのはおかしいですか?
いつの間にか、桜が咲き、暖かな日差しが降り注ぐようになっても、私は変わらず悠人さんの家にいる。
特に約束の日が過ぎても、お互い何も言わなかったし、言う必要もないと思っていた。
チラリと会社で見かける悠人さんはとても忙しそうに見え、帰りも遅い日が続いているが、休みの日は仲良く過ごしている。
家にいる時の悠人さんは、会社とは本当に別人で、嘘のように激甘だ。
朝、悠人さんを見かけてしまったせいか、昨日の夜もさんざん甘やかされてたことを思い出してしまい、慌てて思考を仕事へと戻す。
今日中にこの見積もりと、部品の在庫を調べないといけないのに。
受話器を手にしてメーカーへと電話をしようとしたところで、颯爽とフロアに入って来る一人の女性に目を奪われる。
あっ……。
更科さん。
大和撫子のという形容がぴったりの真っ黒な黒髪、鋭い眼光を放つ真っ黒の瞳。
明日香が言っていた、ただ一人悠人さんに話しかける人。
今までどうしてそのことを忘れていたのだろう?
思いが通じたと思い込んで浮かれていた自分に気づいた。
どう考えても、悠人さんはモテるだろうし、言い寄る女の人も多いはずだ。