身代わり婚~偽装お見合いなのに御曹司に盲愛されています~
「薫子」
静かに言った俺に、薫子は昔の小さい頃のままの瞳を俺に向けた。
「俺はようやく本当の俺を見つけたんだ。社長よりも大切なことを」
その言葉に薫子の瞳が大きく揺れるのが分かった。
「あの子がそんなのいいの?」
先ほどとは違う静かな声音の薫子に、俺は小さく首を振った。
「いいとかじゃない。礼華でなければダメなんだ」
その言葉に考えるような表情を浮かべながら、薫子は小さく息を吐いた。
「そう。いろいろごめんなさい」
初めて見るかもしれない、薫子のその表情に俺はかける言葉を失った。
「薫子……」
「勘違いしないで。あなたがよかったわけじゃないわ。社長夫人になりたかったのよ。謝らないで」
確かにひどいことをしたのは薫子だ。しかし、今までの俺が招いたことなのかもしれない。
礼華にもきちんと話をしていなかったし、俺の気持ちを信じさせられなかったのは自分のせいだ。
「ありがとう……」
その言葉を言いかけた時、勢いよく扉が開いて、高坂が入って来るのが見えた。