身代わり婚~偽装お見合いなのに御曹司に盲愛されています~
終章
「何を見ているのですか?」
甘く、あのお見合いの時と変わらない柔らかい声が聞こえる。

「庭に咲く花を」
クスリと笑いながら私はゆっくりと後ろを振り返った。
完璧な紋付き袴姿の悠人さんは、何度見ても素敵だ。

先ほど厳粛な神社で式を終えた私は、あのお見合いをした料亭にいた。

悠人さんと一緒に家に帰ってから、ずいぶん悪阻も落ち着いたが心配性な悠人さんは、とりあえず親族だけで式を挙げると聞かなかった。

大企業の息子がそれではと、何度も私は言ったが『一番大切なのは礼華と、子供』それを譲らない悠人さん。

そんな悠人さんに、お父様とお母様もそれでいいと言ってくださった。
愛人の子供、腹違いの弟そんな複雑な家庭環境のうえ、大企業の社長という、お父様にお会いするのが少し怖かった。
しかし、その予想に反してご両親はとてもやさしく、感謝された。

『複雑な立場の悠人に、どう接すればわからず、小さいころから我慢をさせることが多かった。君に会ってからの悠人が本当の悠人なんだろう』
そう言って笑ってくださったお父様の言葉を私は思い出す。

「どうした?」
ゆっくりと私に近づき、悠人さんは私の手を握りしめた。

「いえ、幸せだなって」
ゆっくりと私も手を握り返す。

「これからもっと幸せになろう。さあ行こうか?」
行こうと言いながらも、悠人さんは私に優しいキスをする。

「行くんじゃないんですか? みんな待ってますよ」
クスクスと笑いながら言った私に、悠人さんも私に笑顔を向けた。

「もう一度だけ」
そう言ってそっと唇を重ね合わす。

柔らかな日差しの降り注ぐこの場所からもう一度始めよう。

これからもずっとそばにいて。

身代わりから始まった甘い誘惑を永遠に。

それが私の切なる願い。


Fin








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