身代わり婚~偽装お見合いなのに御曹司に盲愛されています~
かなり上の階に止まっていたエレベーターにため息が漏れた。

今は冷静に話せる自信がなく、悠人さんに会いたくない、そんな気持ちはいつも裏切られる。
エレベーターを降りたところで、傘を持った悠人さんがいた。
「悪い! 間に合わなかった」
悠人さんの方が泣きそうに見えるほど、表情を曇らせて私を見つめる。
「早く家に入って!」
私の手を取り引きずるように悠人さんは部屋へと戻る。

「どうした?寒い?」
何もしゃべらない私に、悠人さんバスタオルを持ってくると、私の頭ごと包み込む。
ふわりと柔らかいタオルに包まれて、とうとう私の瞳から涙が零れ落ちる。
タオルで隠れれていてよかった。
そんなことを思いながら、静かに涙をタオルで隠すように拭いた。
「早くお風呂はいってこい」
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