身代わり婚~偽装お見合いなのに御曹司に盲愛されています~
珍しく命令口調で言われ、私は静かに頷いた。このままでは家の中には入れない。
それほど私はずぶ濡れだった。

バスルームに入って、鏡に映る自分はやはり涙がこぼれていて、真っ青な顔をしていた。
しばらくぼんやりとしていたのだろう、私は悠人さんの声に我に返った。
「彩! きちんと入ってる?」
「はい!」
自分が濡れたまま鏡の前に立っていたことに気づく。
寒いこともなにも感じられなくなった心は、考えることを拒否しているような気さえした。

とっさに返事だけをして、ガタガタと震える体をギュッと自分で抱きしめた後、私は服を脱いでバスルームへと入った。


その後、お風呂から出た私は、呆気なく悠人さんにつかまり、当たり前のように髪を乾かされていた。
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