愛され秘書の結婚事情

「まさか、佐々田さんが事故に遭ったの!」

 いきなり悠臣がカウンターに両手を突いて詰め寄って来たため、受付嬢二人はびっくりして同時に身を竦ませた。

「いえ、あの、事故のせいで佐々田さんが……」

 上手く説明出来ない受付嬢に痺れを切らし、悠臣は乱暴な口調で「もういい! 彼女は今どこにいるんだ!? 病院か!? どこの病院だ!」と怒鳴った。

「いえ、病院ではなく、医務室に……」

「医務室!? 会社の医務室か!?」

「は、はい……」

 その答えを聞くなり、彼は踵を返していた。

 本社の医務室は二階の建物奥にある。

 エレベーターを使う時間も惜しいと、悠臣は受付の前を突っ切って真っ直ぐ階段を目指した。

 すごい形相で階段を駆け上がる彼を見て、他の社員が何事かとその背中を見送る。

 他の者には目もくれず、悠臣は真っ直ぐに医務室を目指した。
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