愛され秘書の結婚事情

 部屋の主を驚かせた悠臣は、ハァハァと肩で息をつきながら、室内をグルリと見渡した。

 医務室は十畳ほどの広さで、スタッフ専用のデスクとファイルロッカー、患者用ベッドと医療用具を収めた棚の他、応接セットにミニキッチンと流し台があり、デスク正面の戸口から部屋全体が見渡せる。

 だが部屋のどこにも、七緒の姿はなかった。室内にいるのは、上品なグレイヘアの医務室スタッフ一人きりだ。

 乙江は礼儀知らずの来訪者に向かって、「何事ですか!」と声を上げた。

 しかし悠臣はその台詞を無視し、またさっきと同じ勢いで彼女に詰め寄った。
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