愛され秘書の結婚事情

「先生! 彼女はどこですか!」

「は?」

「彼女です! 佐々田七緒さんですよ! まさか病院へ運ばれたんですか!」

 呆然とする乙江に、悠臣は凄い形相で怒鳴り続けた。

「教えて下さい! 彼女は今どこです!」

 その時。

「常務……?」

 背後から小さな声が響き、悠臣はハッと振り向いた。

 医務室の戸口に、七緒が立っていた。

 いつものようにリクルートスーツを着て、眼鏡を掛けて。

 ただいつもと少し違うのは、キッチリひっつめている髪が下ろされていた。

 医務室近くのトイレから戻ったばかりの七緒は、乙江に詰め寄る悠臣を見て、「一体どうなさったんですか?」と言った。

 だが悠臣は、彼女を見つけた途端に表情を変え、また大股で戸口に向かった。

 そして無言のまま、思いきり目の前の体を抱きしめた。
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