愛され秘書の結婚事情
そこまで呆然と成り行きを見ていた乙江が、「怪我はないけれど、今日は早退させるべきですね」と声を上げた。
冷静沈着な看護師は七緒の上司を見つめ、「さっき彼女自身にも、そう進言したところです」と言った。
「目の前で人が撥ねられるシーンを目撃したんです。どうにか出社したものの、気分が悪くなってここへ運ばれて来たんです。外傷はないけれど、精神的ショックは相当なものです。ですから今日は早退して、出来れば専門医のカウンセリングも受けた方がいいと、そう彼女にはお伝えしたんですが、仕事がある、の一点張りで」
乙江の苦言に、七緒は「ですが私はもう、気分が悪いのは治りましたし……」と反論した。
「確かに目の前で人が撥ねられたのはショックでしたが、自分が事故に遭ったわけでもないのに早退だなんて……」
「何を言っているんだ!」
そこで悠臣が、七緒の言葉を遮るように声を上げた。