愛され秘書の結婚事情

「ちょっと待って下さい!」

 七緒は悲鳴のような声で叫んだ。

 その声に悠臣も驚き、電話の会話を止めた。

「やめて下さい! そんな、そんなこと……絶対にいけません!」

 おそらく電話口の室長も驚いているだろう。

 シンと静まり返った部屋で、口を開いたのは乙江だった。

「そうですね。私もそれは誤った方法だと思いますよ」

 怪訝な顔の悠臣を、乙江は落ち着いた表情で見つめた。

「本気で彼女を案じているのなら、彼女のためになることをされるべきです。つまり、彼女は早退させて病院を受診させる。あなたは彼女がいなくても、きちんと自分の仕事を遂行する」

「だが……」

 反論しかけた悠臣はけれど、そこで目の前の七緒を見た。

 そして彼女の目にうっすら滲んだ涙を見て、「フゥ」と息をつく。
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