愛され秘書の結婚事情
悠臣はまた小さく嘆息し、「じゃあ君も僕のお願いを聞いて」と言った。
「通勤カバンはここにある?」
「はい」
「じゃあいつも仕事で使っているタブレットだけ、僕に貸して。下に車を呼ぶから、それに乗ってまず病院へ行って。先生」
「はい」
「彼女を診てもらえる病院を紹介していただけますか。何度か通院することを考慮して、会社近くかT駅近辺がいいんですが」
「友人が勤めている心療内科が評判がいいです。T駅から二駅のK駅近くです。今日すぐに診察してもらえるか連絡してみましょう」
「ありがとうございます」
悠臣はすぐに視線を前に戻し、目を伏せたままの七緒を見つめた。
「先生が紹介してくれた病院で診察を受けたら、また車を使って自宅に戻って。無事に帰宅したら、メールでいいから僕の携帯に連絡をして。その後はすぐベッドに横になって。眠れなくても、横になって。わかった?」
「……わかりました」
七緒は小さな声で答え、ベッド脇に置いていた自分の鞄からタブレットを取り出し、それを悠臣に渡した。
そして彼の顔を見ないまま、深々と頭を下げた。
「ご迷惑をお掛けします。申し訳ございません」
悠臣はその謝罪に対しては無言のまま、「では先生。あとはよろしくお願いします」と乙江の方だけを見て言った。
そして彼は、静かに部屋を出て行った。