愛され秘書の結婚事情
3.
悠臣がその日全ての業務を終えたのは、午後八時のことだった。
彼は腕の時計を見て、社用車のシートに気怠げに凭れかかった。
午前中にはもう、七緒からメールが届いていた。
乙江に紹介された病院で診察を受け、睡眠薬と鎮静薬を処方してもらったと。さきほど自宅に戻り、これから休むと。メールにはそんな報告と共に、秘書として至らない自分を詫びる文面も添えてあった。
いかにも礼儀と職務に忠実な、彼女らしいメールだった。
(今日はもう、プロポーズの返事は聞けないな……)
車窓から流れる夜の街を眺め、悠臣はぼんやりした頭でそう思った。
今日同行してくれた小森には、七緒には一週間休みをやるつもりだと伝えている。
どうせ自分は明日の午後から海外出張で、会社にはいない。
今回の出張は複数の幹部が同行するため、こういった場合、随行する秘書の面子は決まっている。
留守番となる七緒は他の秘書のサポートに回ったり、普段なかなか出来ない事務作業を行う。
だがそれは必ず今しなければならないことではない。