愛され秘書の結婚事情
「も、もしもし……」
声が震えたのは、緊張のせいだった。
「常務……」
七緒の声が、息を飲む悠臣の耳に届く。
いつものハキハキした声でない、どこか危うさを感じさせる弱々しい響きだった。
「あの……つい先程、小森室長からメールが届いて……」
まだ事故のショックが続いているのか。たどたどしい口調で、七緒は言った。
「明日は出社しなくて良いと言われました。それから、常務が予定を全て終えられて、帰宅されたと……」
「ああ、うん。今、家に帰る途中だよ……」
掛かってきた電話の意図が見えず、悠臣は慎重に答えた。
昼間は興奮の余り暴走しかけ、思いがけず泣かせてしまった。
また同じ愚挙に出まいという、彼なりの防衛反応だった。