愛され秘書の結婚事情

 そこで車が自宅マンション前に着いた。

 後部座席のドアを開けてくれた運転手にジェスチャーで礼を言い、悠臣は通話を続けたまま車を降りた。

「では、お返事させていただきます……」

 黒いセダンが遠ざかったところで、七緒が言った。

 マンション入り口の自動ドア前で、悠臣はピタと立ち止まった。

 覚悟はしていたつもりだったが、やはり背中が緊張で伸び、自然と喉が鳴った。

「常務……。いえ、桐矢さんのお申し出、有り難く受けさせていただきます」

「…………」

「…………」

「…………え?」

 自分が聞き間違えたかと、悠臣は間抜けな声を上げた。

「今、なんて……」

「……桐矢さんのプロポーズをお受けしたいと、そうお答えしました」

「…………」

「…………」

「…………え?」

 そこで我慢出来ず、七緒がプッと噴き出した。
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