愛され秘書の結婚事情

 電話口で慌てた声を上げる悠臣に対し、七緒の方は落ち着いた様子で、「はい。わかりました」と静かに答えた。

 けれどその声には小さな笑いが含まれていて、その微かに弾んだ声音に、彼の心も自然と浮き足立った。

「そういえば食事はしたの? 何か食べた?」

「病院の帰りにコンビニに寄って、冷凍うどんやおむすびを買って、それを食べました」

「それだけ? 他には?」

「それだけですが、動いていないので、お腹は空いていません」

「だけど……。ああでも、どこかに買い物に寄る時間が惜しいな……」

「多少の食材は冷蔵庫にありますから、お腹が空いたら適当に何か食べます。……桐矢さんは、ちゃんとお食事をされましたか」

「いつも以上に食べたよ。会議でもランチコースがやたらボリュームあったし、視察の時もあれ食えこれ食えって沢山試食させられたから」

 悠臣の返事にまたクスリと笑い、七緒は「では問題ありませんね」と言った。

「うん、良かった」

 悠臣も笑顔で答えた。
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