愛され秘書の結婚事情
5.
またも突拍子もない提案をする七緒を、悠臣は一瞬唖然とした顔で見て、次に、プーッと大きく噴き出した。
ここに来て、彼はようやく気付いた。
プロポーズした時に自分を平手打ちしたのも、今、手をつねりたいと言ったのも、どちらも彼女の正直すぎる心の結果だと。
確かにこれまで七緒にとって悠臣は、恋愛対象外の存在だった。
それは彼が彼女にとって、「好みじゃない」からでも「オジサンすぎる」からでもない。
単に遠すぎる存在、そんな目で見ることすら許されない存在だったからだ。
だが彼からプロポーズされたことで、彼女の常識は引っくり返った。
あの時、あの瞬間から、彼は彼女と同じ土俵に立てた。好きだと伝えたことで、七緒はようやく、悠臣を恋愛の対象として見始めた。
そしてたった二日という短い時間で、彼女は彼を受け入れた。
大きな葛藤があっただろうが、交通事故を目撃するという一種のショック療法で、彼女は自分の本心に気付いた。